2011年10月21日金曜日

マクロ経済入門 Part 1

石渡です。

 ディベートの大会とかに参加した時は草の根運動をして、このブログの評判を聞いているつもりですが、東女の子からは「もっと教えてください(執筆スピード、遅いよ)」とかICUの子からは「英語だと読みやすいんですけど(英語で書けよ)」とかいう声を頂いています。最大限、反映していきたいと思いますので、どんどん言ってください。フェイストゥフェイスで言いづらいなら、facebookとかtwitterにもいるのでそれらを通じてでもいいです。

今回は、以前のブログと少し趣向を変えて、マクロな話をします。先日、ICUDSの合宿に参加させてもらって、恐縮ながら経済のレクチャーをしました。その時に、評判がよかったと聞いているので(だと信じています苦笑)そこから拝借するつもりです(×ネタギレ・面倒くさい)

 具体的な内容としては、経済学はどのように世界を捉えているかです。クッキーカッターっぽいものや専門知識を絡めて説明していきます。

まず最初に経済系クッキーカッターというと、以下のような

Small Government or Big Government

みたいなものがあります。経済学の教科書とかでも説明されていることですし、米国政党の対立軸だったりしますし、ある程度汎用性はあるのかと思います。これを使って説明します。

 まず、このGovernmentが想定する状況を類型化すると以下の3つになります。

a. Win-Win
b. Win-Lose
c. Win-Win-Lose

a. Win-Win
取引における売り手と買い手の双方がwinする状況です。多くの状況においてはWin-Winです。例えば、さんまの売り手は自分がwinする価格でさんまを売る一方で、買い手はバナナなどの他の選択肢があるなかで、自分がwinするさんまを買ったとします。その時は、まさにwin-winの関係と言えますね。
この状況の前提としては、多数の取引主体がいることです。例えば、さんまの売り手しかいなかったら、さんまが嫌いでバナナが好きな買い手はunhappyである一方、バナナが好きな買い手しかいなかったら、さんまの売り手は売れないのでunhappyです。サンマやバナナの売り手及びサンマやバナナの買い手がたくさんいて始めて、win-winになるのです。
他の前提としては、買い手がinformedであって、rationalcost and benefitcompareできる状態であるということも付け加えておきましょう。これに関しては、すでに既知のことが多いと思うので、多くは論じません。
この状況においては、政府の必要性はないですから、small governmentになるわけです。ちなみに何がスモールかというと立法や規制、指示などの政府の活動です。

Asbest君「何で例がさんまとかバナナなの?やっぱり年をとると感覚が古くなってくるのかな。プライズは取っても、年は取りたくないね(苦笑)」
この例には特別な意味はないです。なんとなくですが、ただICU生はこの意味をわかりますよね。

b. Win-Lose
売り手か買い手のいずれかがloseになるのですが、現実の多くは買い手がloseする主体になります。例えば、中古車で考えてみましょう。専門知識を持っている売り手はその中古車が不良品か否かは知っている一方で、買い手の多くは専門知識を持っていないのでその中古車が不良品か否かの判断はつきません。仮に、取引が成立した場合はその取引成立時はwin-winかもしれません。しかし、買い手がいざ乗ってみると、ブレーキが利かず事故なんてことも起こりかねません。まさにwin-loseですね。
ここで多少説明すべき点は、「専門知識」というところです。経済学っぽい言葉を使うと「情報」とかこういう片方に情報が偏在している状況を「情報の非対称性がある」とか言ったりします。この専門知識というのはコンテクストによって変化します。外食だったら、味だったり、衛生面だったりになったりします。
aのところ同様に、このwin-loseという状況は人々がforcedirrationalの時も起こります。また、説明は省きます。悪しからず。
こうなった時はまさに大きな政府の出番です。例えば、中古車が欠陥品であることを避けるために車検を義務付けたり、外食店には衛生に関する法律を作ったり、整形外科産業にはしっかり整形のリスクを伝えるよう指示したりします。そういうことをして、win-winの状況を作るわけです。

*余談ですが、不良品の中古車をLemonと経済学では比喩しています。理由は、見た目からは腐っているかどうか分かりにくいというレモンの性質が今回の中古車のことを説明するのにぴったりだからです。どーでもいいですね。

c. Win-Win-Lose
 売り手と買い手がwin-winなのですが、loseなのは「売り手と買い手以外です」。例えば、第3者だったり、社会だったり、はたまた未来世代です。例えば、環境問題であるならば、ディーゼル車はその売り手と買い手はhappyですが、周りの人たちは排気ガスで困ってしまってunhappyですよね。
 こういう時、政府はガス排出量の規制をしたり、環境に優しい車が売れるように補助金をしたりします、大きな政府として。

*こういう他者への害のことを経済学ではExternality(外部性)とか表現します。これに対する古典的アプローチの一つとしては、taxです。例えば、排気ガスという外部性を抑制するために炭素税なんかをかけたりします。

以上が、政府が想定する状況の3つの類型です。ざっくり言うと、aの状況では小さな政府が、bcの状況では大きな政府が望ましいでしょう。

(続きます)

石渡慧一 
国際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク

2011年10月6日木曜日

Gemini Cup 2011 Motion解説 Part 3

OF: THW prevent criminals from publishing descriptions of their crimes
CAをやることが決まった当初から、この種のモーションは入れたいと思っていました。国際大会でよく出ますし、そのくせ難しいからです。社会に存在するある言論が、目に見える形で社会に影響を及ぼすという証明は簡単ではありません。(ただ、今回対象としているspeechそのものが犯罪についてということで、SQで言論が及ぼしている悪影響の証明は比較的易しかったとは思います)また、free speechモーションでは、ある言論の与える影響をイラストすることが必ず求められるため、そのスキルを測る上でもいいモーションといえます。

Govですが、まずはケースの前に「descriptions」を明確にしておきたいところです。ここでいうdescriptionsは、主に犯行時の著者の心理状態、犯行に至った経緯、犯行時の詳しい様子など、広い意味でのdescriptionsを指すと考えていいと思います。Govのケースですが、一文にまとめると、このspeechが犯罪を引き起こしている、となります。具体的なプロセスとしては、現状で罪を犯す一歩手前の人を犯罪に走らせるとか、何か問題を抱えている人に犯罪という選択肢を与えるとかでしょう。ただ、これだけでは到底speechが犯罪を引き起こしているとは言えません。Govとしては、著者と似た境遇の人間はspeechに無防備であり、counter discourseは耳に入ってこないと言えます。それに著者自身が書いている分、自分の行動を正当化するような言説になるといえます。正当性のある書物や人物との繋がりを示すことで、犯行を正当化する手法もあるようです。遺族の精神的苦痛も言えるでしょう。Speechが実社会におけるハームを引き起こしていることを証明したあとは、SQhate speechholocaust denial等を規制していることを引き合いに出して、言論の自由への政府の介入を論じられるでしょう。あとは、全く新しいアプローチとして、刑罰の観点から、犯罪者の権利は制限されるべきという議論もできると思います。

Oppのほうが見えづらいかもしれませんが、色々いうことはあります。まず、犯罪者の言論の自由は守れます。Govは既に罪を犯した人間であるから、人権は制約できると言ってくるでしょう。Oppとしては、犯罪者であったとしても、基本的人権は常に保障されなければならず、言論の自由は基本的人権であるという強固なスタンスに立つべきです。言論の自由の重要性の見せ方ですが、Govも同意するであろう良心の自由と、言論の自由は切っても切り離せない関係であることを押さえ、自由に考えたことを表現できないと、自己実現はないと言えます。これと少し関係して存在する議論として、自己表現を通して社会と繋がりを持つことで、更生にも貢献していると言えます。次に、どうしても言論の与える悪影響についてGovとクラッシュすることは避けられません。このSpeechが犯罪を引き起こしていないと言いたいですが、たとえ犯罪の一因くらいになっているとしても、それが犯罪に繋がったかどうかはあまりにarbitraryであり、またその犯罪の責任を著者にだけ求めることは不正とも言えます。また、Oppで強いのは、AFTで言論がcounter discourse の存在しないundergroundで存在し続け、この言論への全体のアクセスは減っても、Govのいう一部の人間はアクセスし続けることで、より犯罪に走り易くなるというハームを出せます。

QF: THBT the United States should send its troops to Mexico to fight against drug cartels.
このQFモーションは僕が大分前から温めていて、出したかったモーションです。どこかの独裁国家に侵攻するのとはまた一味違うモーションなので、面白いです。

まずは簡単に背景をみてみましょう。最近よく海外のメディアを賑わせているメキシコでの麻薬戦争ですが、コロンビアを始めとする多くの中南米諸国で何十年と存在してきた問題です。メキシコでも、Medllinなどのコロンビアのカルテルが弱体化するとともに、90年代からメキシコで麻薬カルテルが勢力を拡大しました。2006年にカルデロンが大統領に就任し、軍を動員して麻薬カルテルとの戦争を開始しましたが、カルテルの影響力は増加傾向にあり、戦闘や犯罪による死者の数は急増しています。幾つかの町は完全にカルテルの支配下にあり、カルテルの取り締まりを行う警察や軍の一部はカルテルと繋がっていると言われています。とりあえず積極的に現状肯定をするのは難しいでしょう。米国はというと、70年代に始まったwar on drugsの一部としてメキシコを捉え、wikileaksで明らかになったように、資金調達や技術指導など兵士のトレーニング、軍事顧問の派遣などを行っています。メキシコでの死者が増加の一途を辿る中、オバマ政権は今以上にメキシコでの麻薬戦争に関わっていく姿勢を示しました。これがコンテクストです。

Govとしては、なぜ米国がやるのか、米国にとっての利益、麻薬カルテルを弱体化できるといった3つの要素は押さえたいところです。米国である理由は比較的簡単でしょう。まず、米国には責任があると言えます。カルテルが扱うほとんどの麻薬は米国で消費されますし、犯罪で使用される銃のほとんどが違法に米国から来ています。米国政府の規制の失敗に責任があるといえます。また、米国は強い軍隊を持っているのはもちろん、パナマやコロンビアでの経験があるため、最も適したアクターといえるでしょう。既に米国がメキシコ政府と協力していることを挙げてもいいと思います。次に米国にとっての利益ですが、米国におけるカルテルの犯罪と麻薬取引が減るというのが主でしょう。もちろん、麻薬が人を殺すこと、社会負担が相当なことは簡単にでも押さえなければなりません。他にも、麻薬カルテルは銃の違法売買や人身売買といった組織犯罪にも関与していることを出してもいいと思います。米国に利益があることを証明すれば、米国こそこの問題に責任をもって関与し続けるアクターということも証明できます。あとはカルテルが弱体化する証明です。ここはロジックもそうですが、例を出すことが重要だと思います。やはり、パナマ侵攻などを引き合いに出し、アフガニスタンやベトナムのような泥沼にはならないと言いたいです。

このディベートのOppが難しいのは、ハームを出すことよりも、何を支持するか決めるところでしょう。SQを支持するのか、オルタナを出すのか、思い切ってカンプラを打つのか。SQを支持して、とにかくハームを押すのもありだと思います。米兵を送ることだけはしないけど、メキシコ政府への支援を大幅に拡大してもいいです。これは麻薬のディベートということで、米国で麻薬を合法化するとか中毒者の治療をメインにすることで、米国市場へのカルテルのアクセスをカットすることもできます。一つのカルテルとの手を結び、その他のライバルのカルテルを抑え込むとともに、麻薬取引は正当化しても、戦闘をやめさせることもできるかもしれません。個人的には、SQを支持するのは難しいと思います。どうしても米国に責任はあると思うので。

スタンスによってポイントは変わってきます。ただ、どのスタンスでも、主権の議論は難しいかもしれません。ジンバブエに侵攻するのとは違って、米国とメキシコは協力関係にあります。NAFTAってます。ただ、市民が米兵を歓迎しないという分析はできます。実際、カルデロンの強硬な対カルテル戦争が暴力の増加に繋がったという世論が主流みたいですし、他国の兵士が市民も巻き添えにする戦闘を展開するとなると、尚更です。カルテルの勢力拡大の背景に貧困があることを踏まえると、カルテルが金で市民を買うことはあるでしょう。

スタンスをどうするにせよ、ハームは出せます。何より、カルデロン政権が軍を動員してから、カルテルによる暴力も死者も増えたように、AFTで戦闘が激化することによって、犠牲者が増えることは間違いありません。一般市民も多く巻き込まれるでしょう。パナマと違って、相手が政府軍ではなく、一般市民にまぎれたカルテルのメンバーであることを考えると尚更です。コロンビアでの麻薬戦争では多くの市民が巻き込まれましたし(数は調べてください)、パナマ侵攻だって、少なくとも2000人の市民が死んだと言われています。人が死ぬだけじゃなくて、インフラが破壊されるとか、経済がだめになるとかも言いたいです。外からの投資は確実に減りますし、メキシコ経済に重要な観光業も今以上に衰退します。ただこれらをポイントとして立てても、SQで既に起きているとか、短期的なハームだとかごねられると、重要性に欠けます。そこでOppとして言いたいのは、たとえGovの言うようにメキシコでカルテルの力を弱めても、周辺国に拠点が移るだけという分析です。メキシコでカルテルが勢力を拡大した背景にも、コロンビアから移ったということがあるので、これは比較的言い易いはずです。Govのゴールは達成されることなく、ただハームがあるというケースが完成したら、これはOppの勝ちパターンです。

どこかに介入する系のモーションはとにかく知識が必要です。僕も全然ないので、更に自分で調べてみてください。っていう逃げの終わり方で。


高柳啓太
国際基督教大学3年。ICUDS現部長。 North East Asian Open 2011 DCA, Hong Kong Debate Open 2010 Champion, NEAO 2010 Quarter Finalist & 6th Best Speaker, Australs 2011 ESL Semi Finalist11th Gemini Cup Chief Adjudicator, 20th ICUT Deputy Chief Adjudicator, JPDU 2回準優勝、2回Best Speaker。