2011年8月27日土曜日

労働組合 (中編)

上で説明した通り、労働組合は労働者の利益を守るための組織であるわけです。それがまさに必要性です。良くある話として、経営者は労働者より立場が強いので、労働者の利益を奪うことが簡単というのが背景です。歴史臭がぷんぷんする話としては、女工哀史や蟹工船にでてくる労働者は不当に、賃金を低く抑えられ、搾取されていたわけです。こういう人たちを救うには労働組合が必要だというのはなんだかうなづけますよね。今の世相で考えるならば、不安定な非正規労働者なんでしょうかね。

*経営者が労働者より立場が高い理由に単純に給料に関する権利や人事権というのもありますが、その数の多さにも理由があります。経営者としては、あまり能力の差がみられない労働者が多くいると、高い賃金を求める労働者よりも安い賃金でたえてくれる労働者を優先するでしょう。そうなった時、高い賃金を求めていた労働者はその高い賃金を諦めざるを得ないでしょう。いわゆる足元をみられるとういやつです。

Asbest 君
「今の時代、労働組合とかあんまり聞かないし。新宿駅で国鉄時代の労組出身の人が裁判関係で運動してたりするけど、春闘(労働組合の運動)とか毎回、賃金据え置きで労働組合って本当に労働者の生活を守るために機能しているの?機能していない≒必要ないってことでしょっ」

我ながらよい質問だと思いました(いやAsbest 君ですね苦笑) 答えはYes でありNo であります。というのは、労働組合の存在は活動しなくても、見えない形で圧力を変えて、労働者の利益を守っているという意味ではYesである一方で、労働組合の構成員が減ったり、組合運動をしなかったら次のポストを約束するという暗黙の了解を作ることで、労働組合を空洞化させたりして、労働者の利益が守り切れていないという意味ではNoです。

*今回のモーションの意図とは多少離れますが、労働組合の必要性が薄れてきた一つに労働市場の流動性があがったという背景があります。この流動性と言うのは、簡単に言うと転職のしやすさです。日本は一般的に、終身雇用だったりで転職がしにくいので、労働市場の流動性が少ないって言われています。アメリカのような転職をどんどんしているところにおいては、労働組合は必要ないです。なぜなら、賃金や福利厚生に不満を持ったら、労働運動して失職するリスクを冒すより、さっさとよりよい条件をめざして転職すればいい訳ですから。こういう話かなんかはオポの労働者の利益を守るために労働組合が必要って議論に対応する反論として使えるんでしょうかね。とはいえ、スキルや転職のための費用を十分には持ち合わせていない貧困労働者にとっては、転職なんてのは非現実的ですから、まだまだ労働組合は必要と言えるでしょう。

オポの議論をまとめてみると、労働市場の流動性が上がってきたとはいえ、経営者と労働者のアンバランスな関係は依然として強く残っているので、労働者の利益を守るために労働組合は必要だということになるでしょう。

(つづきます)

石渡慧一 
国際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク

2011年8月19日金曜日

Gemini Cup 2011 Motion解説 Part 2



R3: THBT Latinos should have the right to be taught in Spanish.
このモーションは、アンケートで「難しい」という声が多かったように、最後まで出すか出さないか迷ったモーションです。難しい理由は、別に人が死ぬわけでもない、しかも日本人には縁のないように思えるからだと思います。ただ、教育が絡んでいる点から、ある程度は分かりやすいかなと思い、出しました。主なスタンスですが、Govはもちろん、Oppも多文化主義を否定する必要はありません。Govの主なケースとしては、ヒスパニックの文化を守る上で重要であるというものです。クリアしなければならない前提は、米国政府が多種多様な文化を尊重してきたこと、文化を守る上で言語が重要であること、世代間の文化の継承には教育が重要であること等でしょう。この辺は、米国が唯一の公用語として英語を定めていないこと、公用語を英語とした政策に違憲判決が出たこと、スペイン語が広く使われていることなどを例として使えると思います。Govは文化だけではなく、ヒスパニックコミュニティ内で生きていくであろう子の将来にもいいという議論もできるかもしれません。Oppとしては、同化政策を支持するのは感じが悪いので、長い時間をかけて文化間の理解を育む真の多文化主義を支持し、そしてそのためには共通の英語というツールが必要という見せ方をしたほうがスマートだと思います。他にも、スペイン語のみで育った生徒の様々な機会を奪うことになるというハームは現実的だと思います。教育の役割をここで付け加えると更に強いです。

R4: THW introduce plea-bargaining.
このモーションは割と簡単だったのではないかと思います。対立軸は明確なので、ブレイクのかかったR4に持ってきました。モーションのワ―ディングには含まれていませんが、主に対象となるのはマフィアや企業などの組織犯罪だと思います。Govでそれに限定してもアンフェアではないでしょう。他にも、無罪にすることはないけど減刑はある、何をしたら減刑などのデフィニションを詰めることが求められています。Govとしては、減刑することは必ずしもベストではないけど、功利主義的立場から、この先多くの命を救えるなら正義と言うしかありません。押さえるべき点は、証拠が不足していることが多いこと、そして何より証言を得られることでどれだけの効用があるかです。同じ組織による犯罪はもちろん、他の組織による他の犯罪も防げるというと大きくなります。麻薬や人身売買や銃による被害の深刻性は当たり前ですが、しっかり押さえておかなければなりません。他にも、有罪にするには十分証拠がない人に罰を与えられるという議論も可能だと思います。Oppとしては、たとえ他の犯罪を防げるとしても、被害者への正義を犠牲にすることは許されないというスタンスが固いと思います。また、偽証の可能性が高いことなどを挙げ、司法取引の有効性に穴を開けることが重要です。これは反論だけでなく、無罪の人間に罰を与えるということで、冤罪というハームにも繋がります。モラルハイグラウンドはOppにあるので、それを大事にしながら戦うことが重要です。

拙い文章の上、書いていくうちにだんだんと文章が短くなるという疲れた感じですいません。少しでも参考になれば幸いです。

(続きます)


高柳啓太
国際基督教大学3年。ICUDS現部長。 North East Asian Open 2011 DCA, Hong Kong Debate Open 2010 Champion, NEAO 2010 Quarter Finalist & 6th Best Speaker, Australs 2011 ESL Semi Finalist11th Gemini Cup Chief Adjudicator, 20th ICUT Deputy Chief Adjudicator, JPDU 2回準優勝、2回Best Speaker。

2011年8月12日金曜日

労働組合 (前編)


石渡です。

前回の執筆より、大分間隔が空いてしまいましたが、試験期間中であったということでご勘弁ください。夏休みの間は時間が許す限り、書くつもりです。

前回の原稿は、政府官庁の予算や政策、ブキャナンの主張、経済学における古典的論争など多少、難しい内容を混ぜてしまったかなと思ったのですが、一部のICUやUTのディベーターの子たちから「これぐらいがちょうどいいです」とか「もっと難しくて大丈夫です(てか院生なら当たり前だし、それぐらい書けよ)」という声や行間に隠された裏の声(ただの妄想です笑)を頂いたことを踏まえ、水準に関してはこの程度を維持していこうと思います。ICUとUTというサンプルバイアスがありそうですが、特に他から原稿内容に関してロビイスト活動がなかったので、あえて見逃します。

今回の原稿で論じるモーションは
That trade unions should have their power restricted during times of economic crisis.
です。

僕が参加した時のオーストラルで出たモーションです。確かサイドがガバで、大会参加前に何回か思考実験したモーションだったので、やりたいなと思っていました。しかし交渉の結果、違うモーションになり、あえなく負けました苦笑

そんなどうでもよい過去の話はさておき、労働組合の是非は昔から議論されてきました。古くだとマルクスおじさんがいた時とか、最近だと国鉄の民営化の時とか。おそらく、普遍的な対立軸があるのではないかと思います。

では、個別具体的に分析していきましょう。

モーションが出された時期が2009 年ということや経済危機という単語から推察するに、リーマンショック後に発生した問題を意識したモーションでしょう。その問題とは、うまくいかないGMの再建問題です。Economist とか海外のメディアかなんかで目にしたのですが、GM はリーマンショックの影響を受け、売り上げが落ち、破綻寸前でした。そこで政府は、うん兆円もの融資を決め、再建に乗り出しました。しかし、ご存じの通り再建は実らず、破綻してしまい、国有化されました。

*ちなみにGoverment に国有化されたので、Government Motors と揶揄されまいた(どうでもいいですねw)

ここで皆さんに考えてほしいことは、なぜGMだけ破綻したのかという点です。だって、トヨタだってあるいはクライスラーだって、リーマンショックの影響を受けてますしね。

その答えの一つにGMにおける労働組合の存在があります。労働組合を構成する労働者は、ショック前から経営陣に対して、高い要求をしてきました。具体的には、手厚い年金や医療保険の給付です。これらが大きな負担となって、破綻という結果になってしまったわけです。だから、経済危機とい
うあらゆるコスト削減が望まれる時期においては、経営者含め労働者にも痛みを共有してもらう状況をもたらすために、労働組合の力を制限しようというわけです。

*労働組合がなぜこのような要求を行えるかについては、皆さんご存じだとは思いますが、簡単に説明します。労働組合というのは、労働者が組織し、ある一定の目的をもって「足並みをそろえて」行動する団体です。例えば、この団体が経営者に対して、高い賃金を求めて、ストライキをしたとしましょう。
この時、利益を追求する経営者は、高い賃金を認めた時のコストとストライキによるコスト(例えば、そもそも製品が作れないとかブランドイメージが下がるとか)を比較して、次なる行動をします(賃上げor 無視して労働者が折れるのを待つ)こんなわけで、労働組合は実現するかもしれない賃上げを要求し、ときたま成功して労働組合が望む結果が得られるわけです。

*労働組合の力の制限というのは、これまたひどく抽象的な表現ですが、定義次第でしょう。考えられるのは賃上げの要求水準の天井を決めるとか年金給付期間の制限とかなんですかね。実際の世界では厳格なそれが求められそうですが、「採算が合うように調整する」とか「他の会社の平均的な水準に合わせる」とか言えば、ある程度、屁理屈みたいなディフィニションつつきは回避できるし、ジャッジの納得も得られるでしょう。

とまあ、こんな感じで問題とそれが起きるメカニズムが分かったと思います。

しかし、以前の僕のブログを読んで、頭がちょいと切れるディベーター・Asbest 君はこう考えると思います。「いやいや、賃金とか年金とかについて高い要求することで、破綻することなんて明らかなんだから、労働者は合理的に考えて、破綻して失職するリスクを嫌って、それに応じて、高い要求はし
ないでしょ。それに一時は高い要求をしても、経済が悪くなった時は多少、譲歩していくらかの高い要求は取り下げるでしょ」と。

まあ、良いところはついてきますが、丁寧に反論しましょう。まずは前者のところから。前回のところでも説明した通り、破綻するというリスクが今の労働者に降りかかるとは確実には言えません(前回の原稿と多少、似た議論です)し、さらにはGMとか大きな企業になると、「アメリカ経済ならびに世界経済への悪影響を鑑みて」ということで、政府の莫大な公的資金が期待できるでしょう。だから、将来世代において破たんリスクが増えることとか気にせずまた国民の税金が使われることと織り込んで、高い要求をするわけです。

次は後者のところ。労働者がフレキシブルに対応して、労働者の利益を調整するという主張です。結論から言うと、そこまでフレキシブルではありません。道徳っぽい話をすると、人間は一度吸った甘い汁は忘れられないですし、経済っぽい話をすると、住宅や自動車のローンをその時の高い給料
をもとに組んでいて、給料などの労働者の利益が下がることを極度に嫌うからです。

*経済学ではこういう賃金が下がりにくい性質のことを賃金の下方硬直性なんていう小難しい単語で表現しています。ちなみに、マンキューおじさんの教科書では、新古典派とケインジアンの違いは短期においてこの性質を認めるかどうかっていうことだそうです(軽くスルーしてください)
将来世代の破綻リスク及び国民の税負担を考慮しない労働者及び彼ら彼女らが構成する労働組合が不当に高い要求をして、経営を圧迫して、そのことが経営再建の足かせになっている(だから労働組合の力を制限しろ)というのがガバメントの議論でしょう。

では、次になぜ労働組合がなぜ必要かという話にうつりましょう。 (つづきます)

石渡慧一 
国際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク

2011年8月6日土曜日

Gemini Cup 2011 Motion解説 Part 1

―このブログでは、はじめましてなICU3年の高柳です。
この度は加藤に声をかけていただき、書くことになりました。
今日は、Gemini杯から何カ月も経ちましたが、モーションを振り返るということをしたいと思います。

R1THW legalize bestiality
大会のアンケートで、「R1からこれはきつい」や「出題者の性的嗜好がわかった」など、厳しい意見や面白い意見をいただいた問題児モーションです。このモーションは、簡単にいうとFree ChoiceAnimal Rightsが絡むモーションとなっています。CAをやることが決まった当初から、純粋なLiberalismモーションを必ず1つはいれたいと思っていました。大会前日くらいまではTHW legalize all drugsが有力候補でしたが、なんか古典すぎてつまらない、Animal Rightsのモーションがあってもいい、という2つの理由から、これにしました。

Govとしては、人間にとって性生活は幸福を構成する重要な一部であり、あるマイノリティにとっては動物との性交渉でなければならないというのが大前提となります。次に、人間とは違って動物には権利がないことと、現状で人間への利益を優先している例の説明でしょうか。Govとしては、獣姦が昔から存在していたことを言ってもいいかもしれません。Oppとしては、動物にも権利があることが前提となり、そして大多数の場合で動物の同意のない獣姦はただのレイプであるというのがケースになると思います。動物に権利がある理由、そして動物を守る法律の例が必要となります。あとは獣姦をしたがる人間にMentally illな人が多いことを挙げ、権利を行使するcapacityがないことを指摘してもいいと思います。他にも多数の人間に不快感を与えることや、衛生上の観点から人へのHarmがあること等を言ってもいいですが、この2点はそこまで強くはないでしょう。このディベートで問題になるのは、既に存在している動物を守る法律がAnimal Rightsをもとにしたものなのか否かという議論です。「Animal Welfare」という概念が鍵となるので、調べてみてください。


R2: THBT developing nations should nationalize their natural resources.
このモーションは昔のWUDCで出たモーションで、僕の好きなモーションでもあります。現実世界でも「資源ナショナリズム」として知られているように、争点は明確です。経済における政府の役割で真っ向から対立する中、途上国政府の特異性、天然資源が問題となっていることの2つの要素が絡まるという構図になっています。Govは天然資源によって得られるはずの利益が多国籍企業(MNC)に独占されているというSQが出発点となります。天然資源が有限であること、それにも関わらず短期的利潤のみを追求するMNCによって搾取されており、途上国は資源が枯渇した際に経済発展の術がないという見せ方をすると更に分析が深いと思います。べネフィットとしては、途上国政府の財源確保、強力な外交交渉におけるカード等が挙げられると思います。例としては、近年みられたウクライナに対するロシアの天然ガスの供給停止、石油危機でOPECの取った禁輸政策が適当かもしれません。OppSQを支持してもいいですし、MNCとの間に利潤を分割するなどの決まりごとを作ってもいいと思います。どちらにせよ、国有化は一般的に非効率を意味し、経営の透明性も技術やノウハウも欠ける途上国政府の場合、大きな減産を招くというのがケースだと思います。最近の例だと、ロシアのガスプロム、チャベス政権下での国有化や、ボリビア政府(大統領の名前忘れました、調べてください)による国有化が挙げられます。他に出る議論としては、政治の不安定化、労働環境の悪化があると思います。政治の不安定化というのは、癒着という可愛いものから、クーデターまで指します。労働環境に関しては、Govも言えると思うので、クラッシュすると思います。

(続きます)

高柳啓太
国際基督教大学3年。ICUDS現部長。 North East Asian Open 2011 DCA, Hong Kong Debate Open 2010 Champion, NEAO 2010 Quarter Finalist & 6th Best Speaker, Australs 2011 ESL Semi Finalist11th Gemini Cup Chief Adjudicator, 20th ICUT Deputy Chief Adjudicator, JPDU 2回準優勝、2回Best Speaker。