2011年12月31日土曜日

オフシーズンの過ごし方と指導について 後編

【指導について】
練習会などを通して母校を初めとしてなるべく多くの大学に関われるようにしていますが、その際に気をつけていることをここからは書かせていただきたいと思います。
まずは、相手の段階と特徴をしっかりと掴むことだと思います。厳しいことを言うと凹んでしまう子に厳しいことを言っても効果は薄いですし、逆に自己評価が低い・厳しい人を褒めても反発してしまうなどfeedbackは難しいと思います。また、仮に厳しいことを言うにしても、信頼関係のないところでいってもほとんど効果はありません。反感を生むだけです(それが成長のエネルギーになればいいですが、そんなサイヤ人みたいな精神の人ばかりではありません)。なので、なるべくコミュニケーションを取って相手を知り、自分を知ってもらい、自分の人柄を信頼してもらうことを優先して欲しいと思います。
個人的な経験から考えると、伸びるなーという子は質問などを通してよく話していることが多くて、伸び悩むなーという子はそういうことをしない傾向があるのかなと思います。伸びない子はいなくて、時間差があるだけとは思うので、指導の際には諦めずに粘り強く見ていくことが大事だと思います。時には褒め、時には叱りながら信頼関係を作っていけば、話も聞きやすいと思いますし、何をすべきなのかを教える側も把握しやすいと思うので才能だとか変なラベルを貼らずに気長に成長を見てあげて欲しいなと。
例えば、最後の最後で2008年度のESUJを予選1位ブレイクした人は縁もあり、色々と関わってきたんですが、これは練習会以外でも、Mixiのメッセージなどで質問を度々してきて、それを添削して返すということを繰り返すなど地道な努力を繰り返してきた結果が最後に花開いた形だと思います。これは教える側が諦めなければ、何かしらの結果は出せるのかなと思った一番の実例です。

最後にこれはJudgeとして辞めておこうという部分についても触れておこうと思います。色んなJudgeを見ていてDebaterの一番やる気を削いでいると思えるJudgeの発言は「わからない」というものです。理由が明確化されていない「わからない」ほど聞いていて気持ちの悪いものはありません。Debaterとしては20分準備をしっかりして、一生懸命説明した結果が「わからない」の一言ではやってられません。「~がないからわからない」、「英語が早すぎて理解が出来ない」、「現状が~だから、それとの差がわからない」など「わからない」にしても何種類も可能性がありますし、Debaterが次に向かって進めるようにしっかりとDirectionをするのもJudgeの仕事だと思います。

 DebaterにProblem/Causeを提示させて、Solutionを示せと言うならば、JudgeもDebaterのProblem/Causeを提示して、Solutionまで導くことがJudgeのAccountabilityだと私は思います(もちろん、全部教えずに方向性を示して考えさせるのは重要ですが) また、Feedbackの際に「君達、ダメだね」という関連の指摘はやっている側はわかっているので再認識させる必要はよほどの場合じゃない限りは必要ないと思います。弱っているとこに止めをさすよりかは、いかに気持ちを盛り上げてどうやって同じことをしないか、次につなげるかに時間をかけた方がよほど建設的です。自分のイライラをDebaterにぶつけて解消しても何にもならないですし、信頼を失う原因にもなります。百害あって一理なしです。

【まとめ】

一杯書いたので、まとめますと、
1.オフシーズンにも継続的に練習しましょう。差をつける/埋めるためにもです。ラウンドは無理でも個人で出来ることはたくさんあります。

2.指導をする際は相手を知り、自分を知ってもらいましょう。信頼関係第一です。
Judgeなどを通して粘り強く指導すれば、伸びない子はいません。
JudgeのAccountabilityを果たしながら、建設的なfeedbackをしていきましょう。


ということですね。

末筆になりますが、この記事を通して少しでも今後のDebate界の発展につながればと思います。大会などで顔を合わすことがあれば、またよろしくお願いします。

出利葉貞弘
Gemini cup(2005)3位、The関西(2006)優勝、濱口杯(2006)3位、秋JPDU(2006)ベスト16、ICU-T(2008)ベスト16、Golden cup(2008) 優勝、Golden cup(2009)3位、ディベートのすすめ(2009)ベスト8、The関西(2009)3位、東工大杯(2009)ベスト8、BP novice Kansai 2nd Best adjudicator (2011)/Breaking adjudicator(本選不参加)

2011年12月26日月曜日

オフシーズンの過ごし方と指導について 前編

 このブログを呼んでいるほとんどの方々、はじめまして。知っている方はお久しぶりです。今回、ブログに寄稿させていただくことになった出利葉貞弘(いでりは さだひろ)と申します。

 ここ数年は、あまり関東の大会には行けてないこともあり、ほとんどの方が知らないと思いますので簡単に自己紹介から始めさせてもらいます。20083月に神戸大学を卒業した身(今の4年生が大学に入学した年です)で、卒業後もほそぼそと母校の神戸大学での指導を中心に活動をさせてもらっています(経歴などは最後に載せていますので興味があれば、ご覧ください)。今回は加藤君から何か書いてくださいというスルーパスを受けて寄稿させていただくことになりました()
 テーマが自由ということで、何を書くか迷いましたが、オフシーズンの過ごし方と指導について少しずつですが、書かせていただきたいと思います。

 【オフシーズンの過ごし方】
 凌霜杯、Japan BPが終わり、Tanacupを残して年内の国内大会は終了しました。世界大会に行く人は1月初旬まで大会シーズンですが、大半の方はオフシーズンに入っていると思います。春からの大会シーズンの再開を前に「旅行に行こう、バイトをしよう、テスト勉強だ…etc」と色んなことをしたくなりますが、大会で結果を出したいなら継続的な練習は欠かさずに毎日しておきましょう。11motionのプレパ練習やPMスピーチ練習など短い時間で出来ることを欠かすか欠かさないかで大会シーズンが再開したときに大きな差が出ます。というのも、「何もしない」期間を作ってしまうとリハビリで感覚を取り戻すのに時間がかかってしまって、元の実力に戻ってから初めて上乗せの練習効果が見られることになるので継続的なことをしてきた人に比べて成長に時間的な制約がついてしまうからです。

 ここからは、個人的な見解ですが、多くの人が「何もしない/出来ない」時期に差をつける・埋めることが今の結果に満足できていない人には必要なのだと思います。大会前に練習するのは当たり前ですが、この時期は参加する人は全員練習をしているわけで、努力をしてもなかなか差が埋まりません。一方で、現状で結果が出ている人でもオフシーズンに練習をしない人もいる訳であって、この時期に力を伸ばすことは差を一気に埋めることにつながります。

 実体験を述べると、私は絶対にブレイクするぞと強い気持ちを持って出た2年生の11月のJPDU Tournament(今でいうBP noviceの時期にあった大会)で惨敗をしてしまい、3年のJPDU Tournament(9)で巻き返しを図ろうと強く決心した時期がありました。そのためにまずは関西で開催されるThe関西という大会で絶対に優勝しようと思い、オフシーズンを全て返上して「時事/古典リサーチファイルの増強」、「弱点である英語の勉強」などの努力を12月のオフシーズンから大会が開催される3月までひたすらに続けました(もちろん、遠征を稼ぐバイトであったり、テスト勉強はしていました)。当時の神戸大学の同期たちがインターンに行ったり、短期留学にいったりとラウンドが出来ず、個人でゴリゴリひたすら練習をしていて凄く苦しかったのを覚えてます()

 結果としては、パートナーが最高に優秀だったこともあり、The関西では優勝することが出来ました。大会のmotionは当時の時事ネタが出まくったのですが、リサーチで全て網羅しており、崩れることもなく勝ち進めることができました。

 ここでの自信が深まり、上記の努力を9月の引退試合であるJPDU Tournamentまで続けることができ、最終的にはしっかりとブレイクをすることは出来ました。個人でもそれまで全く縁のなかったSpeaker Prizeを取るなどある程度満足できる形で現役生活を終えることになりました(その後、ESUJに急遽出ることになり、そっちは大コケしましたが汗)

 この経験もあり、神戸の後輩にも言い続けていることですが、「練習をしない時期」は極力少なくすることが自分の望む結果を得るための近道なのかなと私は思っています。オフシーズンはその時期が一番出やすく、力関係が逆転するきっかけになってしまいます。リフレッシュも大事ですし、他のことも大事なというのもわかります。ただ、結果を出したいと心から思うのであれば、その中でも継続した練習を心がけることなのかなと思います。特に、オフシーズンは時間があるからこそ弱点の補強(知識不足ならリサーチ、スピーチ力ならスピーチ練習など)をすることが可能な唯一に近い時期です。今自分に何が足りていないのか、それを埋めるには何をすべきなのかをしっかりと考えてオフシーズンを過ごしてくれればと思います。

(続きます)

出利葉貞弘 神戸大学国際文化学部卒業(2008)
Gemini cup(2005)3位、The関西(2006)優勝、濱口杯(2006)3位、秋JPDU(2006)ベスト16 ICU-T(2008)ベスト16Golden cup(2008) 優勝、Golden cup(2009)3位、ディベートのすすめ(2009)ベスト8The関西(2009)3位、東工大杯(2009)ベスト8 BP novice Kansai 2nd Best adjudicator (2011)/Breaking adjudicator(本選不参加)

ユーロ一考 Part 3

 常々、新聞や海外メディアを見ているとEUやユーロに関しての話題が尽きませんね。メルケル首相ががんばっているようなので、僕も頑張りたいと思います。

して、前回はユーロの慨論について説明させていただきましたが、次はギリシャ危機に関する内容です。以下はなすべきことは、ギリシャ危機はなぜ起こったのかということとそれにユーロは関係したのかの2点です。

最初のギリシャ危機の原因から。これに関しては、多くの報道でなされているとおりギリシャ政府の怠慢です。ギリシャでは、国民の1/4が公務員であったり(票を獲得するために失業者を公務員にするというあまりに近視眼的な政策の結果です)、また定時出社ボーナスに象徴されうる行政コストの無駄がありました。世界各国に共通に見られる現象ですが、遅れたグローバル化への対応です。製造業をはじめとして、ギリシャ経済を支える産業が育っていませんでした。

なぜこのような事態になったのか。このブログの読者であるならば、もうご存じですよね。現世代の人々は、未来世代のことを考えずに、無駄な公共事業で景気良くしようとしたり、社会保障を充実させようとしたりして、向う見ずな財政赤字になってしまう傾向にあります。

*一つレトリックを紹介しましょう。上記のような事態を許容あるいは加速させる政治家のことをPoliticianと呼ぶ一方で、将来のことを考え公正に国益を追求する政治家のことをStatesmanと呼んだりします。さて、日本にstatesmanはいるのでしょうか。あるいはstatesmanを育てようとする国民はいるのでしょうか。

話がそれましたが、次の疑問です。ユーロと財政赤字の関係です。端的に言うならば、ユーロは財政再建を先送りにさせたと言えます。なぜなら、以前のブログで紹介した通り、ユーロは各国に何らかの経済的利益を享受させ、短期的には経済状況が改善されうるからです。ユーロという利益で財政問題と言う構造的な問題をごまかそうとしたわけですね。それを象徴する政治家の行動は、ドイツ政府との交渉の時に起こりました。具体的には、ギリシャ財政が破たんする可能性あった時、ギリシャの政治家は救済を検討するドイツに対して、危機による影響を政治的カードとして行使し、上記にあげた放漫財政を見逃すよう交渉したのです。流石にメルケルさんもあきれたようです(苦笑)

*このようなある制度・政策がある行動のインセンティブを変化せることを経済学ではmoral hazardと言います。実際的には、否定的な結果を招くことが多いので、道徳の劣化と言われていますが、東大の岩本先生曰く誤訳だそうです。非常に有益なロジックなので、いずれブログで説明したいと思います。

一方で、ユーロがなかったとすれば、財政赤字が改善される可能性が上がると言えなくもないでしょう。なぜなら、ギリシャ政府は緊迫する財政問題に対して何らかの行動をうつインセンティブを持つ、つまり正しくリスクを認識しそれにもとづいて適切な行動をとるようになるからです。ただユーロがなかったら、ギリシャがつぶれなかったかどうかは神のみぞ知る領域であるということは言及しておきます。

以上がギリシャ危機とそれに関係するユーロの説明です。

次は、これからのユーロのあるべき姿です。もう鋭い方はお気づきでしょう。ユーロの経済的利益を各国に享受させ、また財政破綻のリスク及び各国への影響を最小化させるためには、「財政規律の堅守」です。民主主義の構造的な問題はさておき、ユーロによる財政構造への悪影響に関しては、これで対応していくことがユーロと言う枠組おいては次善の策です。メディアで報道されていよう、財政赤字をGDPの数パーセントに抑えることを義務付けるようにユーロは動いています。個人的にもこれにまさる代替策はないと思います。

*今回のブログの根拠の一つとして本の著者・田中素香氏はこの財政規律の堅守について1年ぐらい前から指摘しています。まさに先見の明です。また、歴史的背景を述べるならば、過去においてユーロはユーロ拡大を足早に達成するために、財政規律に関しての取り決めがあったのにもかかわらず、ギリシャを始めとした各国の財政状況に目をつむり、また主要国である独仏でさえ、財政規律を破ってきたという歴史的事実があります。だから、PIIGSと呼ばれるような財政問題に対して、極めて問題を抱えた国がユーロに入れたわけです。

*余談となりますが、ノービスでユーロに関するこのような問題意識を取り入れた評価に値するモーションがでましたね。誰かは特定できませんが、モーション作成にかかわっていたT大のK藤くんが付箋だらけのユーロに関する入門書を呼んでいたと記憶しています苦笑

Asbest君「おいおい、結局ユーロは良いシステムなんじゃねーかよ。それじゃ、何でユーロ反対者はあんなにいるんだよ。デメリットもちゃんと説明しろよ。それとも分からないのかな?笑」

・・・・・冷静に行きましょう。

このような財政規律をコントロールするシステムを内包したユーロは、各国の国家主権を著しく侵害していると言えるでしょう。皆さまがクッキーカッターの一つとして、ご存じの通り、国家こそが国民の利益を追求できる最も適切な主体であり、それが国家主権の根拠となっていて、これは否定できないでしょう。これを言うだけでもそれなりにスタンスが構築できます。

ここまで分かれば、及第点ではありますが、はたして上のように各国の主権がいわば暴走し、自国及び他国にまで影響を及ぼしている中で、各国の主権を守る意義はどこにあるのでしょうか。

一つは、既に以前のブログで説明しましたが、5年や10年の景気循環を加味した財政運営は経済的に理に適っています。不景気にはより多くの財政出動、好景気には財政改善。

これだけでは味気ないので、付加価値を加えましょう。独仏などではなく、東欧や南欧諸国といったまだまだ経済途上国には、財政規律を破った経済政策が正当化されます。なぜなら、長期的にみるならば初期の経済投資が長期の発展につながる可能性があるからです。ディベート界にも膾炙しているケインズの乗数効果で説明できると思います。もちろん、自動的にそうなれば開発経済学者などの学者は苦労しないのですが、歴史的にもマーシャルプランの恩恵を受けたヨーロッパ先進国があとになって成功したのは、一時的な財政赤字というリスクを背負ったゆえです。

Asbest君「じゃー、財政破綻させない範囲内で財政規律を各国のGDPに合わせて柔軟に変えればよくね?先進国にはきつく、途上国にはゆるくみたいな、、、、」

極めてディベートが分かっている人のcleverな質問です。

先進国においても、国の政治的社会的利益を追求するために、ある種財政赤字を抱えた財政運営も正当化されます。例えば、北欧諸国が良い例でしょう。彼らは国策として、社会保障を充実させています。これから少子高齢化が進み、財政運営が厳しくなってくると思いますが、彼らに社会保障を諦めさせ、財政運営を健全化することが適切な判断でしょうか。おそらく、否でしょう。充実した社会保障によって、コミュニティや文化が形成され、一説にはそのことが経済活動を活性化させているとも言われています。その結果、他国からもうらやましがられる国へと成長してきたわけです。

このように、先進国や途上国に関わらず、財政規律を課すことは非常に国益を損なう可能性があります。

以上が、ユーロのこれからに関する論評です。はたして、皆さまはどのように思ったのでしょうか。またどうすればこれらの話を活かして、より磨かれた議論ができると考えたでしょうか。答えは皆さまの頭の中にあると思います。極めて論争の余地のあるモーションです。慎重に考えてみてください。

私見としては、国際連盟がその欠陥を克服して、安全保障に多大なる国際連合を設立した歴史があった通り、ユーロもその構造的欠陥を克服して、ユーロ圏内に繁栄をもたらすことを切に望んでいます。

最後に、弁明を。お気づきだとは思いますが、僕のブログは誤字脱字が散見されます。院生としては、恥ずかしい限りですが、時間の制約があってまともに見返せない(+K藤くんが急かす苦笑)ので、ご勘弁ください。内容に関しては、なるべく時間をかけてねっているつもりなので、参考にしていただければと思います。

石渡慧一 
国際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク

2011年12月20日火曜日

ユーロ一考 Part 2


    経済先進国の輸出増加
ギリシャやポルトガルといったもはや昔はすごかったけど、今は多少調子が悪くなってしまった国のベネフィットもある一方で、ドイツをはじめとした経済先進国にもベネフィットがありました。それは輸出の増加です。なぜなら、ユーロ導入後はそれ以前に比べて通貨価値は割安になったので(表現が適切ではないですが、マルク安になったということ)、ドイツ企業の輸出はうなぎ上りに伸びました。リーマンショック以降、先進国はマイナス経済成長率が多い中で、ドイツは23%といった安定した成長率を誇っています(僕自身は、その事実がメルケルの長期政権の一因なのかなと邪推したりしていますが….

*ご存じのように、イギリスはユーロに参加していませんが、ある意味賢くソロバンを弾いたといえるでしょう。というのは、イギリスはそのGDPの多くが銀行業によるもので、製造業が占める割合が大きくなく、ユーロ加入による輸出増加という恩恵が少ない一方でその負担(安定化基金への支出やユーロに入ることによる金融政策の制約)を背負う必要がないですから。ポンドへのプライドや大陸文化に対する島国文化の反抗というところが予期せぬ幸福を招いたやもしれませぬが。

    基軸通貨としての地位確立
 ただ単純にユーロの通貨量が増えたことや①②③のメリットのおかげで域内経済が活発化した結果、世界経済におけるユーロの地位は高まりました(「地位」というのは、政治的パワーみたいなものです)このおかげで国際社会におけるヨーロッパの政治的発言力は増しました。
*お気づきではあると思いますが、これは非常に曖昧なベネフィットです。というのはまだまだ健在のドルや急成長の元、なぜか安心できる通貨である円(苦笑)がいる中でユーロのプレゼンスはどこまであるのか分からないのと、政治的発言力によってどのような効果があるのかは未知数だからです。一流の海外ディベーターなんかはさらっとそれっぽい単語を使ってそれっぽく見せてしまうようなポイントではありますが、そこらへん自信がない日本人ディベーターは、①②③をもってどれだけユーロが圏内にメリットもたらしたかを分かりやすく説明して、さらっとユーロのプレゼンスがあがってユーロの政治的発言力が上がりますとかいえば、cleverだと思います。
以上が、ユーロのメリットです。欧州行政局(?)というところのデータによればユーロ導入後の1500万人ほどの雇用創出効果があったそうです(ちょっとデータの出どころが怪しいので絶対にディベートで使わないでくださいね)

さて次は、ギリシャの財政問題です(ちょっと疲れたので、休憩します笑)

石渡慧一 
国際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク

2011年12月10日土曜日

リサーチのすすめ

こんにちは、加藤です。相当久しぶりの更新になってしまいましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回はリクエストにもあった「リサーチの方法」に関して少し書きたいと思います。
その前に、ざっくりとリサーチの重要性について。

◇ ◇ ◇

「ぶっちゃけパーラメンタリー・ディベートでは、嘘もつけるよね。」
「ロジックさえつければディベートと言うゲームでは勝てるよね。」

こういう噂・話を何回か聞いたことがあります。
残念ながら、資料とかを吟味しない以上、それは構造的にあると思います。

ですが、(こういうぼやきをしている時点で老害化しているのかもしれませんが)ディベートは机上の理論であってはならない、というのが僕の考えです。
変なロジックでも話していくことは、ディベーター・ジャッジ両者に責任があることでしょう。
あまりにも現実離れしているロジック、嘘のFactあたりに関しては、ディベーターはそもそもそんなことを言わないことが求められるはずですし、ジャッジとしてもAverage Reasonable Personとしてそれをキックアウトすることが大事でしょう。(ここはかなり丁寧な議論が必要になりますが……)

なんだかぼやいてしまいました。苦笑 話を戻しましょう。

ディベートにおいてリサーチは非常に大きな意味を持ちます。
・Argumentを思いつきやすくなる
・Argumentの説得度をあげる
・ロジックのTie breakerをExampleでつけることができる
等などなど。

今はBPの季節ですが、Case Setudyでも十二分にExtensionになりうるというのはBP Novice 2011 Official Websiteにも書いてある通りです。
僕の感想なのですが、国際大会でもやはり強いチームはリサーチをしています。
例えば、今年のNEAOを優勝したChung-Ang大学も、リサーチファイルを持ってラウンドしていました。
僕自身も、国際大会で評価されたのはFactをしっかり言えたラウンドが多かったです。

これはまた僕の勝手な予想なのですが、BPのジャッジの仕方が徐々に成熟し始めたり、ディベーターのロジックの強度で優越がつけられなくなる日がそう遠くない日にある気がします。
そうなった場合、リサーチが大きな意味を持ってくるでしょう。
(この予想が外れたらどんまいですが 苦笑 それとは関係なしに、とりあえずリサーチは大事です。)

◇ ◇ ◇

「リサーチ」というと相当ハードルが高いようです。
IRって分からない、何から調べればいいの、時間がかかる……というような声をよく聞きます。
僕自身、あんまりリサーチをすんごく積極的にやっているか、というと怪しいのですが、僕のメソッドを紹介します。

僕は、「脱完ぺき主義者」がキーワードだと思います。
リサーチというと、これも知らないといけない、あれも調べよう、徹底的に日付や名前まで・・・とやりたがったりします。
したがって、調べることすら億劫になったり、調べ始めても途方にくれるパターンがあるようです。

そもそも、1日や2日で、EUのことが全て分かることも、パレスチナ問題のプロになることも、無理でしょう。苦笑
(世の中にはそれくらい頭のいい人もいると思いますが、少なくとも僕はきついです。)
そんなことができたらたくさんの人がアカデミックな道に進んでいると思います。

では、どうすればいいのでしょうか。
BP Novice 2011のGeneral Commentsでも話した内容なのですが、「復習」をしていくことが大事になっていきます。
つまり、やったモーションを、20分くらいでいいので少し調べてみる、この繰り返しにつきると思います。

最近はスマートフォンも大分ポピュラーになってきており、ちょっと調べることは相当容易のはずです。
ちょこちょこっとやったディベートのキーワードを調べたり、一個事例が出てくるだけでもいいでしょう。

ここでのコツは、「どうやってディベートで使うのか?」を考えながらリサーチをすることです。
単純にデータや統計がでてきたとしても、ディベートで使えなければアカデミックに意味があったとしてもディベート的には意味をあまり持たなくなってしまいます。
せっかくのデータなので、どう使用するかを考えてリサーチしましょう^^

最初は分からないことだらけかもしれませんが、ディベートができる分野というのも実は結構限られています。
一つのExampleが本当に様々なディベートで使用できたりしますし、1回基礎知識があると、そのあとに積み重ねていくことは相当楽になりますので、
最初がちょっとつらくてもはじめてみるといいでしょう。

あと、部内でリサーチを共有するシステムを構築している大学は、日本国内でもいくつかあるようですが、それをする場合は特定の分野に詳しい人に聞くのもありでしょう。
僕自身、経済関係に関してはOBのI戸さんや、国際関係に関しては後輩(!!)のF元君などにコバンザメさせてもらっています。
そのかわりといってはなんですが、自分の得意分野に関してはシェアしているつもりですが 苦笑
一人だとリサーチは長続きしないこともあるので、仲間をつくっていくのも大事ですね。

総論っぽい感じですが、これが基本にあると思います。
リサーチの仕方は人それぞれだと思いますので、後は自分のやり方を模索するといいでしょう^^
では、今日はこのへんで。


加藤彰
東京大学法学部3年、2010年度UTDS部長、2011年度監査、BP Novice 2011 Chief Adjudicator。Spring JPDU Tournament 2011を含む4回の優勝、13th ESUJ・Japan BP 2011を含む7回の準優勝、North East Asian Open 2011 Main Semi Finalist、20th JPDU Tournament Best Speaker等。

2011年12月5日月曜日

ユーロ一考 Part 1

 どうも、石渡です。

 先日、W大学のS田くんとK井くんとこのブログについて話す機会がありました。2人からは、「本当に役立っています」とありがたい言葉を頂き、本当に励みになりました。話していて気づいたのですが、もう少しディベートでどう使うか意識しつつ行きたいと思います。
 また、T大学のT永くんとも話していて、改めて気付かされた皮肉な真実がありました。それは「ディベート界の技術や環境は進歩していても、経済(学)の知識は全く進歩していない」ということでした。
 どうでもいい前置きでしたが、今回のテーマはユーロです。今、世界で熱く議論されているユーロです。おそらく、ワールドを含めた近い海外大会でもそれに関連したモーションが出ると予想しています。もはや、リーマンショックの時と同様にここまでホットなイシューを議論しないディベートは、現実問題に対して考えられうる解決策を議論するというディベートの目的の一つを失ってしまい、ただの机上の空論になりさがってしまうんじゃないかとさえ(極端ではありますが)思ってしまいます。
 とはいえ、ギリシャの財政問題に端を発するユーロに関する議論は成熟しているとは言えず、またこれからもギリシャの状況は予断を許さない状況であるので、僕自身も明確な結論を持ち合わせていません。ということで、以前よりユーロの研究者であった田中素香さん(ユーロ支持者)とジャーナリストの有田哲文さん(どちらかというと批判的な方)の本に依拠しつつ、論を進めたいと思います。
 構成としては、始めにユーロのメリットを説明し、次にギリシャの財政問題を簡単に俯瞰して、最後にギリシャ問題を絡めたユーロのあるべき姿というのを分析していきます。

 ユーロのメリット
ユーロが何なのかについての基本的な知識に関してはウィキペディアや池上さんらに譲るとして、ここではユーロのメリットについて説明します。

    域内経済の活発化
    通貨の安定化
    経済先進国の輸出増加
    基軸通貨としての地位確立
(参考:田中素香『ユーロ』)

    域内経済の活発化
これは、2つの観点から。
イ、個人消費の活発
今までは、マルクやフラン、ドラクマ(ギリシャの通貨)などがユーロ圏内で存在し、消費が思うように伸びませんでした。理由は手数料と為替相場リスクです。前者については例をあげましょう。フランス人が安いドイツ製品を買おうとした場合、彼は両替店で手数料込でマルクを買った後にドイツ製品をかうということになりますが、結果的にはそのドイツ製品が高いということケースもあります。それゆえに、消費が伸び悩みます。しかし一方で、ユーロで統一された後は、そのような手数料はありませんから、遠慮なくドイツ人でもギリシャ人でもポルトガル人でも安いドイツ製品を買えますので、消費が伸びます。
 もう1つの為替相場リスクに関して。いつでも為替相場(通貨の交換比率)は変わるリスク(可能性)というものを抱えています。最近の日本を考えてみると容易に理解できるでしょう。例えば、日本の円はこれから(極論ですが)70円さえも下回る可能性だってあります。その時、旅行者や輸入業者はどう考えるでしょうか。一番良い為替を待つために、消費(交換・輸入など)を控えるでしょう。その結果、消費が落ち込みます。しかしながら、ユーロが導入されてしまえば、消費は伸びます。なぜなら、ユーロ圏内でユーロは安定していて、為替リスクを持っていないですから(もちろん、ユーロ対ドル、円については依然と同様に為替相場リスクは内在していますが)

    通貨の安定化
通貨の安定化というのは、通貨の価値が急激に上がったり、下がったりすることが起こりにくくなるということです。アジア通貨危機の時に明らかになったように一時的な経済上の変化や投資家の行動によって、通貨価値というのは乱高下します(このことがアジア共通通貨の推進の大きな理由だったりするのは余談で)
複数存在す通貨を一つにまとめ、「強いユーロ」になるという詳しいプロセスは、国の信用力といった曖昧な概念や外貨準備高といった専門用語などを使う必要があり、おそらくディベートで求められうるマターを超えると思われるので、説明しませんが、複数存在する通貨を一つにまとめ、「強いユーロ」を作ることで、今まで通貨が不安定であった国に投資を呼び込みます。なぜなら、投資家は投資した企業の国の紙幣(通貨)が紙くずになることを今まで恐れていたからです。その結果、ポルトガルやイタリア、アイルランド、ギリシャ(頭文字をまとめてPIIGSと言われています)にて、大きな投資効果がありました。余談になりますが、オリンピック時にはその経済効果と相まってアテネにはポルシェなどの外車がありふれていたようです。
PIIGSという単語をみて、何か疑問に思った人がいるでしょうが、その疑問の解消はあとで解消します。


(続きます)


石渡慧一 
国際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク

2011年11月16日水曜日

マクロ経済入門 Part 2

少し専門的になってしまったので、個別具体的にモーションを使って考えてみましょう。モーションは核燃料廃棄物の国際取引です。それぞれの類型化されたケースに当てはめてみましょう。

a. Win-Win
環境を大事にする先進国にとっては、多少のお金を失ってもこの取引はwinである一方、環境より経済を優先する途上国にとっては、経済発展のためのお金がもらえてwinです。

b. Win-Lose
aのようなことがあるとはいえ、この取引自体が強制されたものか知れません。力関係がアンバランスな先進国と途上国の間にはよくあることです。つまり、本当は周辺地域への悪影響が懸念される核燃料廃棄物を受け入れなくなったのに途上国が受け入れざるを得ないというケースです。

c. Win-Win-Lose
2国間の取引に不公正さがないように、第3者機関が監視したり、周辺地域に影響がないように、セメントで固めて地中奥深くに埋めたり、また周辺地域住民の合意を取ったりしました。その意味では、win-winなのですが、はたして未来の世代はwinでしょうか。時間がたてば、悪影響が積み重なることだってありますし、たとえばその影響がなかったとしてもその核燃料廃棄物があること自体を認めないかもしれません。
他の例としては、環境問題です。例えば炭素税で環境を守りつつ、経済も多少ケアするみたいなスタンスは、未来世代にとってはwinではないかもしれません。なぜなら、未来においてはつもりにつもった二酸化炭素で環境がめちゃくちゃになることだってありますから。そういう意味では、自動車自体を禁止することのみが彼か未来世代にとっての唯一の解かもしれません。

以上がモーションを例にしてみたところでの3つの類型化された状況の説明です。印象としては、aの時はほったからしで、loseを避けるためにはbの時は多少政府が関与して、cの時はRadicalに政府が関与しないといけなそうですね。

*専門的な話ですが、「主流」である新古典派経済学者の多くは、政府が介入しない市場を肯定します。市場の失敗(≒lose)がある時のみ政府の介入を正当化しますが、基本的には競争によって、みんながwin-winになることを期待しています。偏った私見としては、ディベート的にも競争が行われる市場を否定すること及び競争を阻害する市場の介入を正当化することはそれなりの理由をもってDefendするしかないと思います。

最後に、今回のような少し変わったブログを書いた理由を添えて、終わりとします。

その理由というのは、上のような見方をするとディベートがやりやすくなると思ったからです。具体的に言うのは皆さんが考える機会を奪ってしまうので詳しくは遠慮しますが、具体例でいきましょう。例えば、外食店で初めて食事をするときは、情報の非対称性がるので、win-loseということが起こりえます。ただ皆さまはそういうときどうするどうでしょうか。僕の場合は、食べログで調べてからその外食店に入ります。そうすれば、win-winになる可能性があがりますから。このように政府の力を借りずして、多くの場合win-winになることがあるようです。
抽象的ですが、そんなことを頭に入れておくと新しいディベートの見え方がするのではないかと思います。

以上です。失礼します。

石渡慧一 
国際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク

2011年10月21日金曜日

マクロ経済入門 Part 1

石渡です。

 ディベートの大会とかに参加した時は草の根運動をして、このブログの評判を聞いているつもりですが、東女の子からは「もっと教えてください(執筆スピード、遅いよ)」とかICUの子からは「英語だと読みやすいんですけど(英語で書けよ)」とかいう声を頂いています。最大限、反映していきたいと思いますので、どんどん言ってください。フェイストゥフェイスで言いづらいなら、facebookとかtwitterにもいるのでそれらを通じてでもいいです。

今回は、以前のブログと少し趣向を変えて、マクロな話をします。先日、ICUDSの合宿に参加させてもらって、恐縮ながら経済のレクチャーをしました。その時に、評判がよかったと聞いているので(だと信じています苦笑)そこから拝借するつもりです(×ネタギレ・面倒くさい)

 具体的な内容としては、経済学はどのように世界を捉えているかです。クッキーカッターっぽいものや専門知識を絡めて説明していきます。

まず最初に経済系クッキーカッターというと、以下のような

Small Government or Big Government

みたいなものがあります。経済学の教科書とかでも説明されていることですし、米国政党の対立軸だったりしますし、ある程度汎用性はあるのかと思います。これを使って説明します。

 まず、このGovernmentが想定する状況を類型化すると以下の3つになります。

a. Win-Win
b. Win-Lose
c. Win-Win-Lose

a. Win-Win
取引における売り手と買い手の双方がwinする状況です。多くの状況においてはWin-Winです。例えば、さんまの売り手は自分がwinする価格でさんまを売る一方で、買い手はバナナなどの他の選択肢があるなかで、自分がwinするさんまを買ったとします。その時は、まさにwin-winの関係と言えますね。
この状況の前提としては、多数の取引主体がいることです。例えば、さんまの売り手しかいなかったら、さんまが嫌いでバナナが好きな買い手はunhappyである一方、バナナが好きな買い手しかいなかったら、さんまの売り手は売れないのでunhappyです。サンマやバナナの売り手及びサンマやバナナの買い手がたくさんいて始めて、win-winになるのです。
他の前提としては、買い手がinformedであって、rationalcost and benefitcompareできる状態であるということも付け加えておきましょう。これに関しては、すでに既知のことが多いと思うので、多くは論じません。
この状況においては、政府の必要性はないですから、small governmentになるわけです。ちなみに何がスモールかというと立法や規制、指示などの政府の活動です。

Asbest君「何で例がさんまとかバナナなの?やっぱり年をとると感覚が古くなってくるのかな。プライズは取っても、年は取りたくないね(苦笑)」
この例には特別な意味はないです。なんとなくですが、ただICU生はこの意味をわかりますよね。

b. Win-Lose
売り手か買い手のいずれかがloseになるのですが、現実の多くは買い手がloseする主体になります。例えば、中古車で考えてみましょう。専門知識を持っている売り手はその中古車が不良品か否かは知っている一方で、買い手の多くは専門知識を持っていないのでその中古車が不良品か否かの判断はつきません。仮に、取引が成立した場合はその取引成立時はwin-winかもしれません。しかし、買い手がいざ乗ってみると、ブレーキが利かず事故なんてことも起こりかねません。まさにwin-loseですね。
ここで多少説明すべき点は、「専門知識」というところです。経済学っぽい言葉を使うと「情報」とかこういう片方に情報が偏在している状況を「情報の非対称性がある」とか言ったりします。この専門知識というのはコンテクストによって変化します。外食だったら、味だったり、衛生面だったりになったりします。
aのところ同様に、このwin-loseという状況は人々がforcedirrationalの時も起こります。また、説明は省きます。悪しからず。
こうなった時はまさに大きな政府の出番です。例えば、中古車が欠陥品であることを避けるために車検を義務付けたり、外食店には衛生に関する法律を作ったり、整形外科産業にはしっかり整形のリスクを伝えるよう指示したりします。そういうことをして、win-winの状況を作るわけです。

*余談ですが、不良品の中古車をLemonと経済学では比喩しています。理由は、見た目からは腐っているかどうか分かりにくいというレモンの性質が今回の中古車のことを説明するのにぴったりだからです。どーでもいいですね。

c. Win-Win-Lose
 売り手と買い手がwin-winなのですが、loseなのは「売り手と買い手以外です」。例えば、第3者だったり、社会だったり、はたまた未来世代です。例えば、環境問題であるならば、ディーゼル車はその売り手と買い手はhappyですが、周りの人たちは排気ガスで困ってしまってunhappyですよね。
 こういう時、政府はガス排出量の規制をしたり、環境に優しい車が売れるように補助金をしたりします、大きな政府として。

*こういう他者への害のことを経済学ではExternality(外部性)とか表現します。これに対する古典的アプローチの一つとしては、taxです。例えば、排気ガスという外部性を抑制するために炭素税なんかをかけたりします。

以上が、政府が想定する状況の3つの類型です。ざっくり言うと、aの状況では小さな政府が、bcの状況では大きな政府が望ましいでしょう。

(続きます)

石渡慧一 
国際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク

2011年10月6日木曜日

Gemini Cup 2011 Motion解説 Part 3

OF: THW prevent criminals from publishing descriptions of their crimes
CAをやることが決まった当初から、この種のモーションは入れたいと思っていました。国際大会でよく出ますし、そのくせ難しいからです。社会に存在するある言論が、目に見える形で社会に影響を及ぼすという証明は簡単ではありません。(ただ、今回対象としているspeechそのものが犯罪についてということで、SQで言論が及ぼしている悪影響の証明は比較的易しかったとは思います)また、free speechモーションでは、ある言論の与える影響をイラストすることが必ず求められるため、そのスキルを測る上でもいいモーションといえます。

Govですが、まずはケースの前に「descriptions」を明確にしておきたいところです。ここでいうdescriptionsは、主に犯行時の著者の心理状態、犯行に至った経緯、犯行時の詳しい様子など、広い意味でのdescriptionsを指すと考えていいと思います。Govのケースですが、一文にまとめると、このspeechが犯罪を引き起こしている、となります。具体的なプロセスとしては、現状で罪を犯す一歩手前の人を犯罪に走らせるとか、何か問題を抱えている人に犯罪という選択肢を与えるとかでしょう。ただ、これだけでは到底speechが犯罪を引き起こしているとは言えません。Govとしては、著者と似た境遇の人間はspeechに無防備であり、counter discourseは耳に入ってこないと言えます。それに著者自身が書いている分、自分の行動を正当化するような言説になるといえます。正当性のある書物や人物との繋がりを示すことで、犯行を正当化する手法もあるようです。遺族の精神的苦痛も言えるでしょう。Speechが実社会におけるハームを引き起こしていることを証明したあとは、SQhate speechholocaust denial等を規制していることを引き合いに出して、言論の自由への政府の介入を論じられるでしょう。あとは、全く新しいアプローチとして、刑罰の観点から、犯罪者の権利は制限されるべきという議論もできると思います。

Oppのほうが見えづらいかもしれませんが、色々いうことはあります。まず、犯罪者の言論の自由は守れます。Govは既に罪を犯した人間であるから、人権は制約できると言ってくるでしょう。Oppとしては、犯罪者であったとしても、基本的人権は常に保障されなければならず、言論の自由は基本的人権であるという強固なスタンスに立つべきです。言論の自由の重要性の見せ方ですが、Govも同意するであろう良心の自由と、言論の自由は切っても切り離せない関係であることを押さえ、自由に考えたことを表現できないと、自己実現はないと言えます。これと少し関係して存在する議論として、自己表現を通して社会と繋がりを持つことで、更生にも貢献していると言えます。次に、どうしても言論の与える悪影響についてGovとクラッシュすることは避けられません。このSpeechが犯罪を引き起こしていないと言いたいですが、たとえ犯罪の一因くらいになっているとしても、それが犯罪に繋がったかどうかはあまりにarbitraryであり、またその犯罪の責任を著者にだけ求めることは不正とも言えます。また、Oppで強いのは、AFTで言論がcounter discourse の存在しないundergroundで存在し続け、この言論への全体のアクセスは減っても、Govのいう一部の人間はアクセスし続けることで、より犯罪に走り易くなるというハームを出せます。

QF: THBT the United States should send its troops to Mexico to fight against drug cartels.
このQFモーションは僕が大分前から温めていて、出したかったモーションです。どこかの独裁国家に侵攻するのとはまた一味違うモーションなので、面白いです。

まずは簡単に背景をみてみましょう。最近よく海外のメディアを賑わせているメキシコでの麻薬戦争ですが、コロンビアを始めとする多くの中南米諸国で何十年と存在してきた問題です。メキシコでも、Medllinなどのコロンビアのカルテルが弱体化するとともに、90年代からメキシコで麻薬カルテルが勢力を拡大しました。2006年にカルデロンが大統領に就任し、軍を動員して麻薬カルテルとの戦争を開始しましたが、カルテルの影響力は増加傾向にあり、戦闘や犯罪による死者の数は急増しています。幾つかの町は完全にカルテルの支配下にあり、カルテルの取り締まりを行う警察や軍の一部はカルテルと繋がっていると言われています。とりあえず積極的に現状肯定をするのは難しいでしょう。米国はというと、70年代に始まったwar on drugsの一部としてメキシコを捉え、wikileaksで明らかになったように、資金調達や技術指導など兵士のトレーニング、軍事顧問の派遣などを行っています。メキシコでの死者が増加の一途を辿る中、オバマ政権は今以上にメキシコでの麻薬戦争に関わっていく姿勢を示しました。これがコンテクストです。

Govとしては、なぜ米国がやるのか、米国にとっての利益、麻薬カルテルを弱体化できるといった3つの要素は押さえたいところです。米国である理由は比較的簡単でしょう。まず、米国には責任があると言えます。カルテルが扱うほとんどの麻薬は米国で消費されますし、犯罪で使用される銃のほとんどが違法に米国から来ています。米国政府の規制の失敗に責任があるといえます。また、米国は強い軍隊を持っているのはもちろん、パナマやコロンビアでの経験があるため、最も適したアクターといえるでしょう。既に米国がメキシコ政府と協力していることを挙げてもいいと思います。次に米国にとっての利益ですが、米国におけるカルテルの犯罪と麻薬取引が減るというのが主でしょう。もちろん、麻薬が人を殺すこと、社会負担が相当なことは簡単にでも押さえなければなりません。他にも、麻薬カルテルは銃の違法売買や人身売買といった組織犯罪にも関与していることを出してもいいと思います。米国に利益があることを証明すれば、米国こそこの問題に責任をもって関与し続けるアクターということも証明できます。あとはカルテルが弱体化する証明です。ここはロジックもそうですが、例を出すことが重要だと思います。やはり、パナマ侵攻などを引き合いに出し、アフガニスタンやベトナムのような泥沼にはならないと言いたいです。

このディベートのOppが難しいのは、ハームを出すことよりも、何を支持するか決めるところでしょう。SQを支持するのか、オルタナを出すのか、思い切ってカンプラを打つのか。SQを支持して、とにかくハームを押すのもありだと思います。米兵を送ることだけはしないけど、メキシコ政府への支援を大幅に拡大してもいいです。これは麻薬のディベートということで、米国で麻薬を合法化するとか中毒者の治療をメインにすることで、米国市場へのカルテルのアクセスをカットすることもできます。一つのカルテルとの手を結び、その他のライバルのカルテルを抑え込むとともに、麻薬取引は正当化しても、戦闘をやめさせることもできるかもしれません。個人的には、SQを支持するのは難しいと思います。どうしても米国に責任はあると思うので。

スタンスによってポイントは変わってきます。ただ、どのスタンスでも、主権の議論は難しいかもしれません。ジンバブエに侵攻するのとは違って、米国とメキシコは協力関係にあります。NAFTAってます。ただ、市民が米兵を歓迎しないという分析はできます。実際、カルデロンの強硬な対カルテル戦争が暴力の増加に繋がったという世論が主流みたいですし、他国の兵士が市民も巻き添えにする戦闘を展開するとなると、尚更です。カルテルの勢力拡大の背景に貧困があることを踏まえると、カルテルが金で市民を買うことはあるでしょう。

スタンスをどうするにせよ、ハームは出せます。何より、カルデロン政権が軍を動員してから、カルテルによる暴力も死者も増えたように、AFTで戦闘が激化することによって、犠牲者が増えることは間違いありません。一般市民も多く巻き込まれるでしょう。パナマと違って、相手が政府軍ではなく、一般市民にまぎれたカルテルのメンバーであることを考えると尚更です。コロンビアでの麻薬戦争では多くの市民が巻き込まれましたし(数は調べてください)、パナマ侵攻だって、少なくとも2000人の市民が死んだと言われています。人が死ぬだけじゃなくて、インフラが破壊されるとか、経済がだめになるとかも言いたいです。外からの投資は確実に減りますし、メキシコ経済に重要な観光業も今以上に衰退します。ただこれらをポイントとして立てても、SQで既に起きているとか、短期的なハームだとかごねられると、重要性に欠けます。そこでOppとして言いたいのは、たとえGovの言うようにメキシコでカルテルの力を弱めても、周辺国に拠点が移るだけという分析です。メキシコでカルテルが勢力を拡大した背景にも、コロンビアから移ったということがあるので、これは比較的言い易いはずです。Govのゴールは達成されることなく、ただハームがあるというケースが完成したら、これはOppの勝ちパターンです。

どこかに介入する系のモーションはとにかく知識が必要です。僕も全然ないので、更に自分で調べてみてください。っていう逃げの終わり方で。


高柳啓太
国際基督教大学3年。ICUDS現部長。 North East Asian Open 2011 DCA, Hong Kong Debate Open 2010 Champion, NEAO 2010 Quarter Finalist & 6th Best Speaker, Australs 2011 ESL Semi Finalist11th Gemini Cup Chief Adjudicator, 20th ICUT Deputy Chief Adjudicator, JPDU 2回準優勝、2回Best Speaker。

2011年9月24日土曜日

Japan Pre-Australs 2011 モーション解説 後編

R3:That the hiring and firing by employers should not be influenced by information found on social networking sites
あまり型にはまらないモーションなので、難しかったと思います。ただこういうモーションこそ頭を自由に働かせて楽しくやりましょう!

Affはまず「プライベートとは何か」ということについてしっかり説明しましょう。そしてそれがviolateされると生活にどのような支障があるのか。つまり、「仕事上の姿から明白なラインを引いて、別の姿としてとらえられなければいけない姿」がどのようなものなのか。特に欧米では、仕事場ではプロフェッショナルのようにふるまい賢さを演出する一方で、オフの飲み会とかではキャラをはっちゃけるみたいなライフスタイルが多いそうです。
とはいうものの、実際プライバシーを説明するって難しいですよね。そこでコンセプトの説明に加え、ジャッジの共感を得られるような「こういうのはprivate」ですという具体的な例(イラスト?)を出すと説得力が増します。「仕事上でのマジメな顔を捨てて金曜の夜にべろんべろんに酔っている姿はprivateな部分です!職場での姿とは分けて考えなければなりません」みたいな。
このprivateなエリアがSNSを通じて解雇の判断材料になりうる(もしくは見られている恐れがある)と、徐々に「プライベートと職場での姿は分けて考えなければならない」というコンセプトが薄れ、プライベートの生活が満喫できなくなります。たとえば自分ではいくら気をつけていても、飲み会での姿を誰かが写真にとってFacebookでタグ付けしてそれが上司の目に入るかもしれないですよね。そう考えると飲み会を楽しめなくなります。それって権利の侵害とも言えますね。
また、SNSが現代の人たちにとって避けられないコミュニケーションツールだとか分析してみれば、それを自由に使えなくなることのハームが大きく見えます。

Negはself responsibilityだ!みたいな感じでオッケーです。SNSに加入するのもChoiceだし、上司をアドしたりマイミクしたりするのもあるしゅうかつ意味本人のchoiceだと言えます。また、SNS上での姿は本当にプライベートなのかという議論もあります。
Twitterでつぶやきを全体公開して、自分の会社名とかも公開している場合、それで問題発言をしたりしたら会社の評判も落ちますよね。(ちなみに、「SNSに登録するのも本人のChoiceだ」というNegに対してAffはR2で解説した「みんなやってるから(ry」を逆に使って、「みんなSNS使ってもはやSNSが生活上で重要なコミュニケーション手段になっている」と言えるでしょう。)



ざっくりとモーション解説をしました。モーション選定・作成の基準として、国際モーションに慣れている人だったら楽しくでき、まだ慣れていない人には刺激になるくらいのモーションを準備してみました。このようなモーションをうまく料理できるためにオススメなのが、リサーチと、あとは海外音源を聞くことです。

リサーチは具体例を豊富に入れられるようになったり、同じようなパターンのモーションの時にロジックがすぐ出てくるようにするためにとても大切です。具体的な話(ジャッジが頭の中にシーンを想像できるような話)ができたチームは相当勝ちに近づきます。ただ、リサーチってやみくもにやっても本当にディベートで使えるリサーチができているかよくわかんなくなりますよね。

そこで海外音源を聞きましょう。特にワールズとかオーストラルのブレイクラウンドなど、レベルの高いラウンドがお勧めです。これらではたくさんポイントが話されて、ポイントづくりの視野が広がるし、なにより具体例のはさみ方がうまいので、その使い方を参考にリサーチすることで実用を見越した効果的なリサーチができるようになります。海外の音源を聞きこむことによって、プレパが楽になったり、ラウンドを効果的に深め自分サイドにもっていくリスポンスなどが思いつき易くなったりします。

最近日本人ディベーターが海外で活躍するチャンスが広まってきていますよね。もう4年生の自分としては本当に今の現役ディベーター達がうらやましくてしょうがないです!ディベートは楽しいし、多くの出会いを与えてくれるし、生活や学問の上でも視野を広くしてくれます。今回のPre-Australsが皆さんのディベートライフをモチベートするものになっていたらCAとして嬉しい限りです。

頑張ってください!!

木村太郎
慶應義塾大学経済学部4年。KDS所属。国際大会はAustrals(2009), WUDC(2010),
Malaysia Iskandar Debate Open(2010) に参加。ICU Tournament 2010準優勝。スピーカ
ープライズ、ジャッジブレイク多数。

2011年9月9日金曜日

Japan Pre-Australs 2011 モーション解説 前編

Japan Pre-AustralsCAを務めたKDS4年の木村太郎です。

GFに関しては世界チャンピオン達がうまくやってくれたので、予選のトピックについて3トピックのうちから1つずつ選んで解説したいと思います。
                                                                                                                           
R1That we should ban mail-order brides

一般的にMail-order bride とは、国際結婚を斡旋する仲介業者を通じて経済的に貧しい国から豊かな国へ嫁ぐ女性のことを表します。そのとき女性の見た目やプロフィールをカタログのようにインターネット上などに載せ、男性がそれを見てマッチングすることからこのように呼ばれています。(ただこの呼び方は女性に対してオフェンシブであるという批判もあります。)主に東南アジアや旧ソ連の国々から、アメリカ、カナダ、イギリスや、近場で言うと韓国、シンガポールなどに嫁ぐケースが多いそうです。

今回はオーストラルが開かれた韓国の社会問題として、mail-order bridesが嫁ぎ先でうまくやっていけず、自殺するなどの事件が多発して問題になっていたためとりあげてみました。

Affとしては、mail-order bridesが嫁ぎ先でひどい目に合ってしまっているというのが基本的な押しどころでしょう。
まず「結婚」の分析です。結婚というのは人生の大部分を一緒に過ごすパートナーを見つけることであり、人生にとってとても重要である。また、多くの地域では離婚は嫌悪されているから、結婚とは代替irreversibleな選択である。
仲介業者の分析も重要です。貧困の中にある女性に、発展国での豊かな生活をちらつかせ、夫やその国に関する悪い情報は流さない。業者の悪い姿を色々イメージして分析を加えましょう。
また、Banする理由として、本来informed choiceがあるべき姿であるという前提で、「結婚のoutcomeってinformすること不可能じゃね?」とか、仲介を成功させて利益を得る仲介業者にinformさせるインセンティブを持たせることの難しさを分析しましょう。
その結果花嫁が不用意に外国に嫁いでしまい、性格の不一致や夫家族との不仲、周りに理解者がいない環境で母国に帰るお金もないような状態が続き、精神的に苦しんで自殺したりしてしまう。また、悪い夫にあたった場合はDVの対象となったり、家事をこなさせるためだけの存在として扱われたりし、人権侵害も起こりうる。
切り口を変えたポイントとしては、嫁ぎ先が結婚を重視している地域だと、mail-order brideへの悪いイメージからその家族や近所から悪い目で見られ、それが途上国の女性への偏見につながってしまうとか話してもよいでしょう。
うまい人は「カタログで選べる存在」という女性への差別意識が広まるというポイントも作れるでしょう。

Negは「花嫁と夫の両者のChoiceを広げる素晴らしいシステムだ」というスタンスで、外国人と結婚したい選好がある人や、様々な事情で国内での結婚ができない人のメリットを挙げましょう。また、経済的な理由で結婚相手を選ぶのも、properchoiceの一つだとも主張できるでしょう。それで苦しい貧困から抜け出せるなら多少嫁ぎ先が辛い環境でもその人にとって万々歳だし、別に途上国じゃなくてもお金目的で結婚する人いますもんね。それと何が違うんだと。
アナロジーとしてはinternational adoptionや普通のお見合いから分析してみるのもいいと思います。


R2That companies should not ask employees about their educational backgrounds

ケースは就活でも、就職後の昇進基準とかを含めちゃってもどちらでもよいでしょう。
ここで大事な考え方が、「みんなもやっているから、やらなければならない状況になっている」というコンセプトです。このモーションで言うと、人生の一大事である就職において学歴ばかり見られるから、小学校とかのころからみんな学歴競争をしている。本当はスポーツとか絵画とか、もっと勉強とは違うところに才能があってそれを伸ばしたほうがいいかもしれないのに、受験勉強ばっかやっちゃう。するとcompanyの側から見ても、採用選考を受けに来る学生がみんな学歴志向の人生を送ってきた人たちだから、学歴がメインの基準になってしまい、余計学生の学歴志向が高まる。つまり、“みんながやっているから”就職でうまくいくためには受験のための勉強をするしかないという、いわば環境ができてしまっているわけです。それが本当に子どもたちの将来のためになるのかというところが、Affの出発点になるでしょう。就職がいかに大切なイベントであるのかというところも、しっかり話しましょう。

一方Oppは正攻法で、学歴や受験勉強の良さを語りましょう。勉強を頑張ってきたことや、良い大学に入る頭のキレがあることは就職活動で評価されるべき立派な能力基準の一つであると。

両サイドともそこから会社や大学の話に広げるといろんなポイントが出そうですね!

(続きます)

木村太郎
慶應義塾大学経済学部4年。KDS所属。国際大会はAustrals(2009), WUDC(2010), Malaysia Iskandar Debate Open(2010) に参加。ICU Tournament 2010準優勝。スピーカープライズ、ジャッジブレイク多数。

2011年9月4日日曜日

労働組合 (後編)

以上が、今回の労働組合モーションの分析でした。多少、議論が専門的で話がずれた所が多かったので、汎用性が高い話とこの原稿の注意点をいくつか添えて、結びとします。



1.Be Specific!!
こんな長文を書いているのも一つ理由があります。一つのモーションにはこれぐらい真剣に向き合ってほしいという希望です。具体的に真剣に向き合うというのは、リーズニングを深めることと具体例を見つけることです。深いリーズニングに関しては、1回目と2 回目を読んで、鋭い人は気付いたと思いますが、経済系のモーションも突き詰めてみると、ディベートでよく議論される人間の合理性というところに結構、ぶちあたります。今回だと、破綻する企業に対して労働者は高い水準をするかどうかってところですね。だから、経済モーションだからと言って、臆せず長文がかけてしまうほど考え抜いてほしいですところです
もう1 つの具体例に関しては、説得力を高めるというのはもちろんなのですが、自分が本当に肌で理解してほしいという意味もこめています。断定できませんが、ある程度GM やらトヨタなんていう具体例をまじえたからこそ、この原稿が身近になっているのかなと思います。ICU に所属していた時や大会にジャッジとして協力させてもらった時に、新入生を始めた子に口酸っぱく言っていることの一つとして、「まずは日本語で分かるまで考えて、説明してみて」というものがありますが、こういったことを意図しています。もっとテクニカルな話としては、ポイントをサポートする例とサポートしない例をみつけるとより深いマターを考えるきっかけにもなります。

*例えば、GMの反例、つまり労働者の高い要求によって再建がうまくいかなかったという例に対する反例の一つにJALの話があります。ご存じの通り、JALは破綻しました。その時にメディアが報じたように、退職者の不当に高い福利厚生がその再建の足かせになっているということでした。そのままであれば、GMの二の舞だったのですが、それを恐れた退職者が高い福利厚生を諦めて、再建を後押ししたという美談(?)がありました。一般化して言うと、「昔の失敗に学んで、馬鹿じゃない労働者は安易に高い要求しないよ(だから労働組合は廃止しないで!)」みたいな感じでしょうかね。こういう反例を見つけると一歩進んだリーズニングも得られたりします。あくまで、テクニカルな話として。

2. Be Critical!!
としさんではないですが(苦笑)、僕が言ったことは批判的に受け止めてください。今回なら労働組合のことをある程度書いたわけですが、前述の話だけが労働組合の是非を論じるうえでの話だとは思わないでくださいね。他にも非正規雇用の話だったり、組合の中の政治なんかもイシューですしね。クッキーカッターとかフィロソフィーを学んだ初級者に多い失敗ですが、安易にその枠組にしばられて、「このモーションの議論はかくあるべし」みたいなバイアスもってしまって、他のイシューを見落としてしまうということです。うまい海外ディベーターのクロージングを見てみると、イシューは無限なんじゃないかと時々、錯覚してしまいますよね苦笑 重要な話であったかどうかは、あくまで広くかつ深い議論を行ったかによりま

3.What should you do?
このようにいろいろと書いていますが、読者にとってすべてが有益だとは思っていません。むしろ、害になることがおおいぐらいです。それでも、有益だと思うのは、一つぐらいは読者の方につながることがあるのでないかと、地味に信じているからです。だから、読者の方は、自分なりに必要だと思うところを得るために勝手に取捨選択してくださいね。
気がつけば5000 字を超えていました。まだまだ反省が足りないようですね


*今回は、文の流れを切りたくなかったのであえて参考文献は載せませんでしたので、ここで軽くアナウンスメント

労働組合と賃金の話
マンキュー、『マクロ経済学ⅠⅡ』、東洋経済、2008 年
JALの話
斎藤誠、『競争の作法』、筑摩書房、2010 年
それ以外
ウィキペディア

*なるべく事実や学問的な議論に反したくないので、慎重に根拠に基づいていきたいところですが、時間の制約上、昔読んだ本とか雑誌を掘り返したりするのは難しいので、やや信頼性のかけるリソースであるウィキペディアにお世話なりました。ご容赦ください。以上です。失礼します。



石渡慧一 
国際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク

2011年8月27日土曜日

労働組合 (中編)

上で説明した通り、労働組合は労働者の利益を守るための組織であるわけです。それがまさに必要性です。良くある話として、経営者は労働者より立場が強いので、労働者の利益を奪うことが簡単というのが背景です。歴史臭がぷんぷんする話としては、女工哀史や蟹工船にでてくる労働者は不当に、賃金を低く抑えられ、搾取されていたわけです。こういう人たちを救うには労働組合が必要だというのはなんだかうなづけますよね。今の世相で考えるならば、不安定な非正規労働者なんでしょうかね。

*経営者が労働者より立場が高い理由に単純に給料に関する権利や人事権というのもありますが、その数の多さにも理由があります。経営者としては、あまり能力の差がみられない労働者が多くいると、高い賃金を求める労働者よりも安い賃金でたえてくれる労働者を優先するでしょう。そうなった時、高い賃金を求めていた労働者はその高い賃金を諦めざるを得ないでしょう。いわゆる足元をみられるとういやつです。

Asbest 君
「今の時代、労働組合とかあんまり聞かないし。新宿駅で国鉄時代の労組出身の人が裁判関係で運動してたりするけど、春闘(労働組合の運動)とか毎回、賃金据え置きで労働組合って本当に労働者の生活を守るために機能しているの?機能していない≒必要ないってことでしょっ」

我ながらよい質問だと思いました(いやAsbest 君ですね苦笑) 答えはYes でありNo であります。というのは、労働組合の存在は活動しなくても、見えない形で圧力を変えて、労働者の利益を守っているという意味ではYesである一方で、労働組合の構成員が減ったり、組合運動をしなかったら次のポストを約束するという暗黙の了解を作ることで、労働組合を空洞化させたりして、労働者の利益が守り切れていないという意味ではNoです。

*今回のモーションの意図とは多少離れますが、労働組合の必要性が薄れてきた一つに労働市場の流動性があがったという背景があります。この流動性と言うのは、簡単に言うと転職のしやすさです。日本は一般的に、終身雇用だったりで転職がしにくいので、労働市場の流動性が少ないって言われています。アメリカのような転職をどんどんしているところにおいては、労働組合は必要ないです。なぜなら、賃金や福利厚生に不満を持ったら、労働運動して失職するリスクを冒すより、さっさとよりよい条件をめざして転職すればいい訳ですから。こういう話かなんかはオポの労働者の利益を守るために労働組合が必要って議論に対応する反論として使えるんでしょうかね。とはいえ、スキルや転職のための費用を十分には持ち合わせていない貧困労働者にとっては、転職なんてのは非現実的ですから、まだまだ労働組合は必要と言えるでしょう。

オポの議論をまとめてみると、労働市場の流動性が上がってきたとはいえ、経営者と労働者のアンバランスな関係は依然として強く残っているので、労働者の利益を守るために労働組合は必要だということになるでしょう。

(つづきます)

石渡慧一 
国際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク

2011年8月19日金曜日

Gemini Cup 2011 Motion解説 Part 2



R3: THBT Latinos should have the right to be taught in Spanish.
このモーションは、アンケートで「難しい」という声が多かったように、最後まで出すか出さないか迷ったモーションです。難しい理由は、別に人が死ぬわけでもない、しかも日本人には縁のないように思えるからだと思います。ただ、教育が絡んでいる点から、ある程度は分かりやすいかなと思い、出しました。主なスタンスですが、Govはもちろん、Oppも多文化主義を否定する必要はありません。Govの主なケースとしては、ヒスパニックの文化を守る上で重要であるというものです。クリアしなければならない前提は、米国政府が多種多様な文化を尊重してきたこと、文化を守る上で言語が重要であること、世代間の文化の継承には教育が重要であること等でしょう。この辺は、米国が唯一の公用語として英語を定めていないこと、公用語を英語とした政策に違憲判決が出たこと、スペイン語が広く使われていることなどを例として使えると思います。Govは文化だけではなく、ヒスパニックコミュニティ内で生きていくであろう子の将来にもいいという議論もできるかもしれません。Oppとしては、同化政策を支持するのは感じが悪いので、長い時間をかけて文化間の理解を育む真の多文化主義を支持し、そしてそのためには共通の英語というツールが必要という見せ方をしたほうがスマートだと思います。他にも、スペイン語のみで育った生徒の様々な機会を奪うことになるというハームは現実的だと思います。教育の役割をここで付け加えると更に強いです。

R4: THW introduce plea-bargaining.
このモーションは割と簡単だったのではないかと思います。対立軸は明確なので、ブレイクのかかったR4に持ってきました。モーションのワ―ディングには含まれていませんが、主に対象となるのはマフィアや企業などの組織犯罪だと思います。Govでそれに限定してもアンフェアではないでしょう。他にも、無罪にすることはないけど減刑はある、何をしたら減刑などのデフィニションを詰めることが求められています。Govとしては、減刑することは必ずしもベストではないけど、功利主義的立場から、この先多くの命を救えるなら正義と言うしかありません。押さえるべき点は、証拠が不足していることが多いこと、そして何より証言を得られることでどれだけの効用があるかです。同じ組織による犯罪はもちろん、他の組織による他の犯罪も防げるというと大きくなります。麻薬や人身売買や銃による被害の深刻性は当たり前ですが、しっかり押さえておかなければなりません。他にも、有罪にするには十分証拠がない人に罰を与えられるという議論も可能だと思います。Oppとしては、たとえ他の犯罪を防げるとしても、被害者への正義を犠牲にすることは許されないというスタンスが固いと思います。また、偽証の可能性が高いことなどを挙げ、司法取引の有効性に穴を開けることが重要です。これは反論だけでなく、無罪の人間に罰を与えるということで、冤罪というハームにも繋がります。モラルハイグラウンドはOppにあるので、それを大事にしながら戦うことが重要です。

拙い文章の上、書いていくうちにだんだんと文章が短くなるという疲れた感じですいません。少しでも参考になれば幸いです。

(続きます)


高柳啓太
国際基督教大学3年。ICUDS現部長。 North East Asian Open 2011 DCA, Hong Kong Debate Open 2010 Champion, NEAO 2010 Quarter Finalist & 6th Best Speaker, Australs 2011 ESL Semi Finalist11th Gemini Cup Chief Adjudicator, 20th ICUT Deputy Chief Adjudicator, JPDU 2回準優勝、2回Best Speaker。

2011年8月12日金曜日

労働組合 (前編)


石渡です。

前回の執筆より、大分間隔が空いてしまいましたが、試験期間中であったということでご勘弁ください。夏休みの間は時間が許す限り、書くつもりです。

前回の原稿は、政府官庁の予算や政策、ブキャナンの主張、経済学における古典的論争など多少、難しい内容を混ぜてしまったかなと思ったのですが、一部のICUやUTのディベーターの子たちから「これぐらいがちょうどいいです」とか「もっと難しくて大丈夫です(てか院生なら当たり前だし、それぐらい書けよ)」という声や行間に隠された裏の声(ただの妄想です笑)を頂いたことを踏まえ、水準に関してはこの程度を維持していこうと思います。ICUとUTというサンプルバイアスがありそうですが、特に他から原稿内容に関してロビイスト活動がなかったので、あえて見逃します。

今回の原稿で論じるモーションは
That trade unions should have their power restricted during times of economic crisis.
です。

僕が参加した時のオーストラルで出たモーションです。確かサイドがガバで、大会参加前に何回か思考実験したモーションだったので、やりたいなと思っていました。しかし交渉の結果、違うモーションになり、あえなく負けました苦笑

そんなどうでもよい過去の話はさておき、労働組合の是非は昔から議論されてきました。古くだとマルクスおじさんがいた時とか、最近だと国鉄の民営化の時とか。おそらく、普遍的な対立軸があるのではないかと思います。

では、個別具体的に分析していきましょう。

モーションが出された時期が2009 年ということや経済危機という単語から推察するに、リーマンショック後に発生した問題を意識したモーションでしょう。その問題とは、うまくいかないGMの再建問題です。Economist とか海外のメディアかなんかで目にしたのですが、GM はリーマンショックの影響を受け、売り上げが落ち、破綻寸前でした。そこで政府は、うん兆円もの融資を決め、再建に乗り出しました。しかし、ご存じの通り再建は実らず、破綻してしまい、国有化されました。

*ちなみにGoverment に国有化されたので、Government Motors と揶揄されまいた(どうでもいいですねw)

ここで皆さんに考えてほしいことは、なぜGMだけ破綻したのかという点です。だって、トヨタだってあるいはクライスラーだって、リーマンショックの影響を受けてますしね。

その答えの一つにGMにおける労働組合の存在があります。労働組合を構成する労働者は、ショック前から経営陣に対して、高い要求をしてきました。具体的には、手厚い年金や医療保険の給付です。これらが大きな負担となって、破綻という結果になってしまったわけです。だから、経済危機とい
うあらゆるコスト削減が望まれる時期においては、経営者含め労働者にも痛みを共有してもらう状況をもたらすために、労働組合の力を制限しようというわけです。

*労働組合がなぜこのような要求を行えるかについては、皆さんご存じだとは思いますが、簡単に説明します。労働組合というのは、労働者が組織し、ある一定の目的をもって「足並みをそろえて」行動する団体です。例えば、この団体が経営者に対して、高い賃金を求めて、ストライキをしたとしましょう。
この時、利益を追求する経営者は、高い賃金を認めた時のコストとストライキによるコスト(例えば、そもそも製品が作れないとかブランドイメージが下がるとか)を比較して、次なる行動をします(賃上げor 無視して労働者が折れるのを待つ)こんなわけで、労働組合は実現するかもしれない賃上げを要求し、ときたま成功して労働組合が望む結果が得られるわけです。

*労働組合の力の制限というのは、これまたひどく抽象的な表現ですが、定義次第でしょう。考えられるのは賃上げの要求水準の天井を決めるとか年金給付期間の制限とかなんですかね。実際の世界では厳格なそれが求められそうですが、「採算が合うように調整する」とか「他の会社の平均的な水準に合わせる」とか言えば、ある程度、屁理屈みたいなディフィニションつつきは回避できるし、ジャッジの納得も得られるでしょう。

とまあ、こんな感じで問題とそれが起きるメカニズムが分かったと思います。

しかし、以前の僕のブログを読んで、頭がちょいと切れるディベーター・Asbest 君はこう考えると思います。「いやいや、賃金とか年金とかについて高い要求することで、破綻することなんて明らかなんだから、労働者は合理的に考えて、破綻して失職するリスクを嫌って、それに応じて、高い要求はし
ないでしょ。それに一時は高い要求をしても、経済が悪くなった時は多少、譲歩していくらかの高い要求は取り下げるでしょ」と。

まあ、良いところはついてきますが、丁寧に反論しましょう。まずは前者のところから。前回のところでも説明した通り、破綻するというリスクが今の労働者に降りかかるとは確実には言えません(前回の原稿と多少、似た議論です)し、さらにはGMとか大きな企業になると、「アメリカ経済ならびに世界経済への悪影響を鑑みて」ということで、政府の莫大な公的資金が期待できるでしょう。だから、将来世代において破たんリスクが増えることとか気にせずまた国民の税金が使われることと織り込んで、高い要求をするわけです。

次は後者のところ。労働者がフレキシブルに対応して、労働者の利益を調整するという主張です。結論から言うと、そこまでフレキシブルではありません。道徳っぽい話をすると、人間は一度吸った甘い汁は忘れられないですし、経済っぽい話をすると、住宅や自動車のローンをその時の高い給料
をもとに組んでいて、給料などの労働者の利益が下がることを極度に嫌うからです。

*経済学ではこういう賃金が下がりにくい性質のことを賃金の下方硬直性なんていう小難しい単語で表現しています。ちなみに、マンキューおじさんの教科書では、新古典派とケインジアンの違いは短期においてこの性質を認めるかどうかっていうことだそうです(軽くスルーしてください)
将来世代の破綻リスク及び国民の税負担を考慮しない労働者及び彼ら彼女らが構成する労働組合が不当に高い要求をして、経営を圧迫して、そのことが経営再建の足かせになっている(だから労働組合の力を制限しろ)というのがガバメントの議論でしょう。

では、次になぜ労働組合がなぜ必要かという話にうつりましょう。 (つづきます)

石渡慧一 
国際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク