2011年9月24日土曜日

Japan Pre-Australs 2011 モーション解説 後編

R3:That the hiring and firing by employers should not be influenced by information found on social networking sites
あまり型にはまらないモーションなので、難しかったと思います。ただこういうモーションこそ頭を自由に働かせて楽しくやりましょう!

Affはまず「プライベートとは何か」ということについてしっかり説明しましょう。そしてそれがviolateされると生活にどのような支障があるのか。つまり、「仕事上の姿から明白なラインを引いて、別の姿としてとらえられなければいけない姿」がどのようなものなのか。特に欧米では、仕事場ではプロフェッショナルのようにふるまい賢さを演出する一方で、オフの飲み会とかではキャラをはっちゃけるみたいなライフスタイルが多いそうです。
とはいうものの、実際プライバシーを説明するって難しいですよね。そこでコンセプトの説明に加え、ジャッジの共感を得られるような「こういうのはprivate」ですという具体的な例(イラスト?)を出すと説得力が増します。「仕事上でのマジメな顔を捨てて金曜の夜にべろんべろんに酔っている姿はprivateな部分です!職場での姿とは分けて考えなければなりません」みたいな。
このprivateなエリアがSNSを通じて解雇の判断材料になりうる(もしくは見られている恐れがある)と、徐々に「プライベートと職場での姿は分けて考えなければならない」というコンセプトが薄れ、プライベートの生活が満喫できなくなります。たとえば自分ではいくら気をつけていても、飲み会での姿を誰かが写真にとってFacebookでタグ付けしてそれが上司の目に入るかもしれないですよね。そう考えると飲み会を楽しめなくなります。それって権利の侵害とも言えますね。
また、SNSが現代の人たちにとって避けられないコミュニケーションツールだとか分析してみれば、それを自由に使えなくなることのハームが大きく見えます。

Negはself responsibilityだ!みたいな感じでオッケーです。SNSに加入するのもChoiceだし、上司をアドしたりマイミクしたりするのもあるしゅうかつ意味本人のchoiceだと言えます。また、SNS上での姿は本当にプライベートなのかという議論もあります。
Twitterでつぶやきを全体公開して、自分の会社名とかも公開している場合、それで問題発言をしたりしたら会社の評判も落ちますよね。(ちなみに、「SNSに登録するのも本人のChoiceだ」というNegに対してAffはR2で解説した「みんなやってるから(ry」を逆に使って、「みんなSNS使ってもはやSNSが生活上で重要なコミュニケーション手段になっている」と言えるでしょう。)



ざっくりとモーション解説をしました。モーション選定・作成の基準として、国際モーションに慣れている人だったら楽しくでき、まだ慣れていない人には刺激になるくらいのモーションを準備してみました。このようなモーションをうまく料理できるためにオススメなのが、リサーチと、あとは海外音源を聞くことです。

リサーチは具体例を豊富に入れられるようになったり、同じようなパターンのモーションの時にロジックがすぐ出てくるようにするためにとても大切です。具体的な話(ジャッジが頭の中にシーンを想像できるような話)ができたチームは相当勝ちに近づきます。ただ、リサーチってやみくもにやっても本当にディベートで使えるリサーチができているかよくわかんなくなりますよね。

そこで海外音源を聞きましょう。特にワールズとかオーストラルのブレイクラウンドなど、レベルの高いラウンドがお勧めです。これらではたくさんポイントが話されて、ポイントづくりの視野が広がるし、なにより具体例のはさみ方がうまいので、その使い方を参考にリサーチすることで実用を見越した効果的なリサーチができるようになります。海外の音源を聞きこむことによって、プレパが楽になったり、ラウンドを効果的に深め自分サイドにもっていくリスポンスなどが思いつき易くなったりします。

最近日本人ディベーターが海外で活躍するチャンスが広まってきていますよね。もう4年生の自分としては本当に今の現役ディベーター達がうらやましくてしょうがないです!ディベートは楽しいし、多くの出会いを与えてくれるし、生活や学問の上でも視野を広くしてくれます。今回のPre-Australsが皆さんのディベートライフをモチベートするものになっていたらCAとして嬉しい限りです。

頑張ってください!!

木村太郎
慶應義塾大学経済学部4年。KDS所属。国際大会はAustrals(2009), WUDC(2010),
Malaysia Iskandar Debate Open(2010) に参加。ICU Tournament 2010準優勝。スピーカ
ープライズ、ジャッジブレイク多数。

2011年9月9日金曜日

Japan Pre-Australs 2011 モーション解説 前編

Japan Pre-AustralsCAを務めたKDS4年の木村太郎です。

GFに関しては世界チャンピオン達がうまくやってくれたので、予選のトピックについて3トピックのうちから1つずつ選んで解説したいと思います。
                                                                                                                           
R1That we should ban mail-order brides

一般的にMail-order bride とは、国際結婚を斡旋する仲介業者を通じて経済的に貧しい国から豊かな国へ嫁ぐ女性のことを表します。そのとき女性の見た目やプロフィールをカタログのようにインターネット上などに載せ、男性がそれを見てマッチングすることからこのように呼ばれています。(ただこの呼び方は女性に対してオフェンシブであるという批判もあります。)主に東南アジアや旧ソ連の国々から、アメリカ、カナダ、イギリスや、近場で言うと韓国、シンガポールなどに嫁ぐケースが多いそうです。

今回はオーストラルが開かれた韓国の社会問題として、mail-order bridesが嫁ぎ先でうまくやっていけず、自殺するなどの事件が多発して問題になっていたためとりあげてみました。

Affとしては、mail-order bridesが嫁ぎ先でひどい目に合ってしまっているというのが基本的な押しどころでしょう。
まず「結婚」の分析です。結婚というのは人生の大部分を一緒に過ごすパートナーを見つけることであり、人生にとってとても重要である。また、多くの地域では離婚は嫌悪されているから、結婚とは代替irreversibleな選択である。
仲介業者の分析も重要です。貧困の中にある女性に、発展国での豊かな生活をちらつかせ、夫やその国に関する悪い情報は流さない。業者の悪い姿を色々イメージして分析を加えましょう。
また、Banする理由として、本来informed choiceがあるべき姿であるという前提で、「結婚のoutcomeってinformすること不可能じゃね?」とか、仲介を成功させて利益を得る仲介業者にinformさせるインセンティブを持たせることの難しさを分析しましょう。
その結果花嫁が不用意に外国に嫁いでしまい、性格の不一致や夫家族との不仲、周りに理解者がいない環境で母国に帰るお金もないような状態が続き、精神的に苦しんで自殺したりしてしまう。また、悪い夫にあたった場合はDVの対象となったり、家事をこなさせるためだけの存在として扱われたりし、人権侵害も起こりうる。
切り口を変えたポイントとしては、嫁ぎ先が結婚を重視している地域だと、mail-order brideへの悪いイメージからその家族や近所から悪い目で見られ、それが途上国の女性への偏見につながってしまうとか話してもよいでしょう。
うまい人は「カタログで選べる存在」という女性への差別意識が広まるというポイントも作れるでしょう。

Negは「花嫁と夫の両者のChoiceを広げる素晴らしいシステムだ」というスタンスで、外国人と結婚したい選好がある人や、様々な事情で国内での結婚ができない人のメリットを挙げましょう。また、経済的な理由で結婚相手を選ぶのも、properchoiceの一つだとも主張できるでしょう。それで苦しい貧困から抜け出せるなら多少嫁ぎ先が辛い環境でもその人にとって万々歳だし、別に途上国じゃなくてもお金目的で結婚する人いますもんね。それと何が違うんだと。
アナロジーとしてはinternational adoptionや普通のお見合いから分析してみるのもいいと思います。


R2That companies should not ask employees about their educational backgrounds

ケースは就活でも、就職後の昇進基準とかを含めちゃってもどちらでもよいでしょう。
ここで大事な考え方が、「みんなもやっているから、やらなければならない状況になっている」というコンセプトです。このモーションで言うと、人生の一大事である就職において学歴ばかり見られるから、小学校とかのころからみんな学歴競争をしている。本当はスポーツとか絵画とか、もっと勉強とは違うところに才能があってそれを伸ばしたほうがいいかもしれないのに、受験勉強ばっかやっちゃう。するとcompanyの側から見ても、採用選考を受けに来る学生がみんな学歴志向の人生を送ってきた人たちだから、学歴がメインの基準になってしまい、余計学生の学歴志向が高まる。つまり、“みんながやっているから”就職でうまくいくためには受験のための勉強をするしかないという、いわば環境ができてしまっているわけです。それが本当に子どもたちの将来のためになるのかというところが、Affの出発点になるでしょう。就職がいかに大切なイベントであるのかというところも、しっかり話しましょう。

一方Oppは正攻法で、学歴や受験勉強の良さを語りましょう。勉強を頑張ってきたことや、良い大学に入る頭のキレがあることは就職活動で評価されるべき立派な能力基準の一つであると。

両サイドともそこから会社や大学の話に広げるといろんなポイントが出そうですね!

(続きます)

木村太郎
慶應義塾大学経済学部4年。KDS所属。国際大会はAustrals(2009), WUDC(2010), Malaysia Iskandar Debate Open(2010) に参加。ICU Tournament 2010準優勝。スピーカープライズ、ジャッジブレイク多数。

2011年9月4日日曜日

労働組合 (後編)

以上が、今回の労働組合モーションの分析でした。多少、議論が専門的で話がずれた所が多かったので、汎用性が高い話とこの原稿の注意点をいくつか添えて、結びとします。



1.Be Specific!!
こんな長文を書いているのも一つ理由があります。一つのモーションにはこれぐらい真剣に向き合ってほしいという希望です。具体的に真剣に向き合うというのは、リーズニングを深めることと具体例を見つけることです。深いリーズニングに関しては、1回目と2 回目を読んで、鋭い人は気付いたと思いますが、経済系のモーションも突き詰めてみると、ディベートでよく議論される人間の合理性というところに結構、ぶちあたります。今回だと、破綻する企業に対して労働者は高い水準をするかどうかってところですね。だから、経済モーションだからと言って、臆せず長文がかけてしまうほど考え抜いてほしいですところです
もう1 つの具体例に関しては、説得力を高めるというのはもちろんなのですが、自分が本当に肌で理解してほしいという意味もこめています。断定できませんが、ある程度GM やらトヨタなんていう具体例をまじえたからこそ、この原稿が身近になっているのかなと思います。ICU に所属していた時や大会にジャッジとして協力させてもらった時に、新入生を始めた子に口酸っぱく言っていることの一つとして、「まずは日本語で分かるまで考えて、説明してみて」というものがありますが、こういったことを意図しています。もっとテクニカルな話としては、ポイントをサポートする例とサポートしない例をみつけるとより深いマターを考えるきっかけにもなります。

*例えば、GMの反例、つまり労働者の高い要求によって再建がうまくいかなかったという例に対する反例の一つにJALの話があります。ご存じの通り、JALは破綻しました。その時にメディアが報じたように、退職者の不当に高い福利厚生がその再建の足かせになっているということでした。そのままであれば、GMの二の舞だったのですが、それを恐れた退職者が高い福利厚生を諦めて、再建を後押ししたという美談(?)がありました。一般化して言うと、「昔の失敗に学んで、馬鹿じゃない労働者は安易に高い要求しないよ(だから労働組合は廃止しないで!)」みたいな感じでしょうかね。こういう反例を見つけると一歩進んだリーズニングも得られたりします。あくまで、テクニカルな話として。

2. Be Critical!!
としさんではないですが(苦笑)、僕が言ったことは批判的に受け止めてください。今回なら労働組合のことをある程度書いたわけですが、前述の話だけが労働組合の是非を論じるうえでの話だとは思わないでくださいね。他にも非正規雇用の話だったり、組合の中の政治なんかもイシューですしね。クッキーカッターとかフィロソフィーを学んだ初級者に多い失敗ですが、安易にその枠組にしばられて、「このモーションの議論はかくあるべし」みたいなバイアスもってしまって、他のイシューを見落としてしまうということです。うまい海外ディベーターのクロージングを見てみると、イシューは無限なんじゃないかと時々、錯覚してしまいますよね苦笑 重要な話であったかどうかは、あくまで広くかつ深い議論を行ったかによりま

3.What should you do?
このようにいろいろと書いていますが、読者にとってすべてが有益だとは思っていません。むしろ、害になることがおおいぐらいです。それでも、有益だと思うのは、一つぐらいは読者の方につながることがあるのでないかと、地味に信じているからです。だから、読者の方は、自分なりに必要だと思うところを得るために勝手に取捨選択してくださいね。
気がつけば5000 字を超えていました。まだまだ反省が足りないようですね


*今回は、文の流れを切りたくなかったのであえて参考文献は載せませんでしたので、ここで軽くアナウンスメント

労働組合と賃金の話
マンキュー、『マクロ経済学ⅠⅡ』、東洋経済、2008 年
JALの話
斎藤誠、『競争の作法』、筑摩書房、2010 年
それ以外
ウィキペディア

*なるべく事実や学問的な議論に反したくないので、慎重に根拠に基づいていきたいところですが、時間の制約上、昔読んだ本とか雑誌を掘り返したりするのは難しいので、やや信頼性のかけるリソースであるウィキペディアにお世話なりました。ご容赦ください。以上です。失礼します。



石渡慧一 
国際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク