みなさんこんにちは。一橋大学2年の世永です。もうすぐ学年が一つ上がり、上級生と完全に混じって戦う修羅の世界に足を踏み入れる時期になってきました。そこで、今までなんとなくやってきた「ディベート」というものは、そもそもどういうものなのかということを考える記事を書いてみました。体系立てた理解があると他の領域の理解にも役立つので、是非読んでみて下さい。
1. そもそもディベートってどういうものなの?
①モーションを肯定する/否定するということ
最近はphilosophy/practicalityの議論の発展や、エンゲージの手法も前より多く知られることになったことによって、テクニカルにディベートを進めようとする人が増えてきましたが、一旦ここで単純にディベート、すなわちモーションを肯定/否定するということについて整理してみましょう。
モーションを肯定するということは、そのモーションがとられるべき理由を伝えるということです。その理由がphilosophicalであることも、practicalであることもありますが、議論の本質はそこにあると考えてよいでしょう。このポイントを忘れて”philosophy/practicality”という枠組みに縛られてしまうと、関係のないところがやたら強調されたりした、それっぽくはあるものの全く的外れな議論が出来上がってしまいます。なので、まずはphilosophy/practicalityという枠組みに囚われずに、なぜこのモーションを肯定するのか、または否定するのかということをシンプルに考えてみましょう。
②モーションを肯定/否定するべき理由
では、いったい「モーションを肯定/否定する理由」とはなんなのでしょうか。
まず直感的にはbenefit(便益)に目が行くでしょう。どんなモーションにおいても、それをとることによって何らかのbenefitが発生します。そしてそれは大いにモーションをとる理由になるのです。そのbenefitが規範の形成であったり、物質的利益であったりしますが、モーションによって生じる一番大きな変化という特性上、ここの証明を疎かにすると勝利がかなり遠のいてしまいます。個人的な意見ですが、直感的な議論ほど大事にしてあげましょう。直感的に理解出来る議論は突き崩しにくく、なおかつ多くの人に理解されやすいので強いものである可能性が高いからです。
そしてその便益を特定した後は、それが「とられてもよい」ということを証明する段階に移ります。その行為のvalidity(正当性)です。いくらbenefitが生み出されるからといって、みだりに何でもしていい訳ではありません。validityを示すことによって、その便益がとられるということにより一層説得性が持たせられます。皆さんが一般的に言っているphilosophyがこれに当たります。
これと並行して、「なぜこのモーションがとられなければならないのか」という要素、necessity(必要性)も考えてあげましょう。これは必ずしも毎回必要とされるものではないですが、いわゆるポリシーディベート(現状に何らかの問題が生じており、それを解決するためにとられるモーションでのディベート)においてはかなり重要な要素となりうるものです。「必要がないならやらなくていーじゃん!」その通りです。なお、Opp.のときはこの逆(harm, invalidity, no-necessity)を同様に証明してあげればよいでしょう。
これらの議論をもれなく押さえていると、「まぁいいんじゃね?」レベルのコメントをジャッジから貰えるようになってきます。笑
③「モーションに沿う」という概念
上のようなことをやっただけではもちろん勝てるようにはなりません。相手も同じことをやってきます。では、競り勝つためにはどうすればいいのでしょうか。そこで登場する概念がuniqueness(独自性)とrelevancy(関連性)というものです。前者は「なぜこのモーションでないといけないのか」ということ、後者は「なぜ議論がこのモーションと関係あるのか」ということを示します。
この概念の存在により、議論の説得性はより増します。
甲「このモーションをとればとりあえず予算作れる!!やった!!うっひゃー」
乙「いや予算とか他で埋めればいいでしょwここに使われるのが大事なの!」
uniquenessやrelevancyのない議論は「他の方法の提示」という方法で簡単に吹き飛ばされてしまいます。こんな状態でいくら予算の大事さを説いたところで勝ち様がありません。さらに、「モーションを」肯定/否定するという観点から、議論の競り合いになったときにはよりrelevantな議論の方が往々にして優先されます。勝つためには「このモーションをとったことによってのみ得られる便益」や、「このモーションこそがとられるべき理由」などをプレパの段階で考える癖を付けるようにしましょう。
補足①:「ネガオポだったよね」
Opp.としてディベートをしていたときにこの理由で負けたことがある人は多いと思います。「反論したのに」とか、「否定しただろ」などと不満を噴出させている人もいるでしょう。ではなぜネガオポだと負けるのか、そしてそもそもネガオポとは何ぞやということについて軽く触れておきたいと思います。
ネガオポ(Negative
Opposition)というのは「モーションを積極的に否定出来てないOpp.」のことを指します。つまり、相手の議論の否定ばかりして、そもそもなんでモーションがとられるべきではないかという話をしてない人達のことです。ここまでで察しのいい人ならなぜネガオポだと負けるのか分かったでしょう。理由は至極単純で、「モーションの否定を行ってないから」です。「このモーションをなぜとらないべきであるのか」ということは違い、相手の議論への反論は、相手の積み立てた+を0に戻す作業でしかないので、勝ちの要素にはならないということなのです。つまり
甲「売春することは個人の自由の観点から正当化されるべきであり、また合法化したら生活の質が〜」
乙「いや別にやんなくてよくね?生活の質なんてあんまあがんねーよ!」
丙「それは『とらなくていい理由』でしょ?で、お前が言う『とっちゃいけない理由』って何よ?」
乙「ぐぬぬ」
ということです。ネガオポを避けるためにも、モーションを否定、すなわちmotionの悪い所を議論するという意識をしっかり持ってラウンドに臨むようにしましょう。
補足②:「philoとpraって分けるものなの?」
よく聞く話として「このもーしょんのふぃろって何なんですか?」というのがあります。長らくphilosophy/practicality、そしてSQ/APという概念が主流なので、そういうアプローチになるのは普通かと思いますが、最近のモーションの形式の多様化に傾向を考えると、philo/praの概念を再考してみるのもいいかもしれません。例えば、TH
regrets NATO's evolution into an active military force.(ADI 2012)のphilo…無理です。まぁ無理です。そんな分け方出来ません。(世の中には出来るすごい人もいるのかもしれませんが、少なくとも僕には無理です。) なので、philo/praの峻別をせず、そのmotionに関係あるissueをベースに思考を発展させていく、というアプローチが出来るとよりmotionへの対応力が高くなるかもしれません。
2. 実際にどう使えばいいの?
「そういう仕組みがあるのは分かったけど、実際にどういう風にそれをスピーチとして組み立てたらいいのか分からない」、「どうやってmotionから見いだせばいいのかわからない」というのが大きな課題だと思います。
そこで、
THBT feminist movements should seek a ban on pornography.
(Japan BP 2012)
というmotionを使って実際の思考の流れを一度再現してみましょう。SideはGov.です。
①そもそもなぜこのmotionが出てきたのかを考える。
このmotionはどのようなことを議論させる為に出てきたのか、ということを考えることは有効なアプローチの一つです。motion作成者やAdj.coreの視点に立って考えるなど、「客観的かつ広い視点」というクッションをおいて考えることにより大暴投を未然に防ぐことが出来ます。大学入試の現代文で「作問者の視点で考えよう!」っていう解き方がありましたが、それと同じ感じです。
ここでは、「とりあえずfeminist movementsがpornoをbanするように動くことに何らかのいいこと/悪いことがあるんだなー」という理解でいいでしょう。聞こえのいい、あるいはぱっと見で当たり前でありそうなことに縛られないことが大事です。
②Clashベースで考える
ディベートのざっっっくりとした構造を把握した後は、もっと細かい段階に移りましょう。ここで使うアプローチがClash(対立軸)という概念です。このissueに関してGov.とOpp.双方何が言えるのか、というのが基本的な思考メソッドとして使われます。この方法のメリットとしては、
1.
議論を読んだ上で戦える:相手が何を言ってくるのかを予測した上で議論が組み立てられるので、必然的に崩されにくい議論になる。
2.
議論の打率が上がる:Gov./Opp.で共有する分析しか出てこないのは基本的に重要じゃないです。(cf. 櫻井さんの資料のConsensusの部分)
3.
質のいいディベートになる:お互いがこれを行うことにより、話が噛み合いディベートは楽しくなりスピーカーズポイントも。。。
などがあります。汎用性の高いものなので、是非マスターしておくといいでしょう。
では、今回のmotionに関して見ていきましょう。このmotionにおける基本的なClashをみていくと、
(a) Benefit:
このmotionをとることによる何らかの変化
(b) Validity(Uniqueness):
なぜfeminist
movementsなのか
(c)
Necessity: そもそもなぜfeminist
movementsが動かなければならないのか
という3つに納まります。このように大体のmotionのclashは前に挙げた3つの理由に納まるように出来ているので、基本的なアプローチとしてこの3つの理由から探ってみることを覚えておくといいと思います。
そして、このクラッシュの正体がおおまかに時点でスピーチの骨子は出来上がります。簡単にまとめてみると、
「性別を基準とする、女性に不利?な構造をもつpornoに対し、男女平等を目指す運動であるfeminist movementsはbanする動きをするべき」
という風になります。
③Clashを分析する
Clashを見つけ出して終わり、では元も子もありません。Clashはあくまでも議論を進めるための土台なので、ここからはそのclashにおいて勝ちに行くことを考えてみましょう。
この時に使う有効なアプローチとしてはワード分析が挙げられます。これはモーションの中にある単語を分析することによってロジックなどを引っ張り出すというものです。そこから得られた抽出物がいわゆるcharacterizationとかcontextualizationとか呼ばれたりします。この方法自体は基本的なテクニックなので皆さんにとっても馴染みのあるものではないかと思うので、そこまで苦労せずに行えるでしょう。逆に言うと、この引き出しの多さがディベーターの実力であったりもします。
そして今回のmotionを見てみると、
(1) feminist movements
(2) porno
(3) seek a ban
という3つの単語?が分析出来そうな匂いを醸し出しています。
それぞれについて見ていきましょう。
(1) feminist
movements
これは男女の平等を目指す団体として捉えてもよさそうです。社会にはびこるpatriarchyを取り除く為に日夜様々な活動を行っています。トップレスでデモをやったりしているあの人達です。
そしてここからまた新たなclashが一つ生まれました。それは、feminist movementsのprincipleである「男女の平等」という概念です。何を以て平等とするのか、変えられない差異をどう扱うのか。ここでも議論が衝突しそうです。このように、基本的なclashを足がかりとしてどんどん話を発展させていくと、分析の多い/深いディベートへと発展していきます。
(2) porno
porno自体の説明は必要ないでしょう。問題は、このpornoがfeminist movementsとどう関わっているかという視点です。ただpornoの話をするのではrelevantではありません。なので、motion内に存在する単語を有機的に組み合わせていくという意識でワード分析に取り組むといいでしょう。
その観点で見ていくと、feminist movementsが求めているものは男女平等であるから、それと逆の状態であるという分析を出せばよいという結論にたどり着きます。そうすることで、「なぜfeminist movementsなのか」という問いが解消されます。
でもただ「不平等!差別的!」と言うだけでは勝てません。上手いOpp.はどこからでも攻め込んできます。そこで、いかに不平等であるかという話もきっちり分析しましょう。その産業に従事している人の数、仕事の内容、産業構造、働いている人のバックグラウンドなど、分析の切り口は少なくないはずです。Opp.の話の内容を予測して、「この方法(ban)でないといけない」というuniquenessをしっかり埋めていきましょう。Motionをただ分析するだけでは勝ちには繋がりません。
(3) seek a
ban
ただbanするわけではなく、「banするように働きかける」ということに注目しましょう。英語があまり上手くない人に多く見られますが、自分の中で勝手にアクターの動き(モデル)を単純化してしまうのはやめましょう。Feminist movementsがbanすることは出来ません。彼らは政府じゃないです。そこら辺のニュアンスもしっかり押さえるようにしましょう。
世間に対して動くこと自体がメッセージとなる、みたいな話でもいいですし、banするための圧力となって女性をpornoから開放出来る、でもいいです。ここで大事なのは、生じたbenefitをactorの行動原理に結びつける、ということです。ただやたらにbenefitを乱発するだけだと勝てません。(cf. 「モーションを」肯定する) なので、なぜそのbenefitは今回のmotionにおいて重要であったかということをしっかり示してあげましょう。今回で言うと、メッセージやら開放やらが男女平等に繋がるものである、というところまでbenefitとしてあげるといいでしょう。
④スピーチを作る
基本的な話は出てきました。あとはこれをうまくパッケージして喋るだけです。ここからは基本的に個人の裁量と練習の領域なのですが、慣れないうちは先ほどあげた基本的な3要素に当てはめて話すとうまくまとまりやすいです。一例を下に挙げておきます。
1.
Why
feminist movements should act.
・Seeking equality between men/women
・Equality = equal treatment from the (member of the) society regardless of sex
・Seeking equality between men/women
・Equality = equal treatment from the (member of the) society regardless of sex
2.
How
disadvantageous against women the porno industry is.
・Women are “fed” by men.
・Basically forced to work b/c of financial problem etc.
・The industry comprises women.
・Creating a bad norm against women.
・No benefit for women
・Basically forced to work b/c of financial problem etc.
・The industry comprises women.
・Creating a bad norm against women.
・No benefit for women
3.
How
women will benefit from this plan.
・Strong push to ban porno
・Sending a message towards the society
・Great step to achieve equality
・Sending a message towards the society
・Great step to achieve equality
別に突飛である必要はないので、当たり前の話を当たり前にするようにしましょう。カッコいい話を考えるのは勝ってからでも遅くはありません。でもやっぱり海外に憧れる。Victorとかいいよね。
基本的にはこんな感じでやっていくとmotionに対してのアイデアが完成します。ただし、気をつけてほしいのは、このやり方に囚われないということです。このやり方をたたき台にして、組み替えて、どんどん自分のやりやすいように理論を体系化させていってください。そうすることで、ディベートへの理解がより深まります。多分。はい。きっとそうです。
0 件のコメント:
コメントを投稿