2011年7月14日木曜日

純ジャパが海外を制すには? (後編)

前回の続きです)

では、逆の視点、つまり「財政赤字は許される」といった議論を考えてみましょう。

ビルトインスタビライザー

という言葉を知っているでしょうか。財政に備わっている景気を自動的に安定させる装置です。このビルトインスタビライザーのもとでは、不況時には所得減で税収が減ったり、失業増で失業手当が増えたりするなど、財政への負担が増えたりする一方で、好況時には税収が増えたり、上のような社会保障費を経るわけですから、財政への負担が減ります。

この前提に立つ時、財政赤字を招く減税や財政政策は許容されます。なぜなら、それらの政策は人々の消費を活性化させ、好況をもたらす可能性からです。そうなれば、増税しなくても自然と税収が増えたり、発展途上国なんかで考えてみるとこれをきっかけに行動成長を起こしてGDPが爆発的に増えるというありがたいことさへきます。だから、一時の財政赤字は許されるわけです。

例えば、麻生政権が行った経済政策であるエコポイントは、景気浮揚策として一定の効果をあげました。政府の試算によれば、5兆円もの経済効果がありました。それに多くの人が、環境に優しい自動車を買って一石二鳥でしたね。

*エコポイントシステム
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%B3%E3%83%9D%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%88%E3%81%AE%E6%B4%BB%E7%94%A8%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%B3%E5%AE%B6%E9%9B%BB%E6%99%AE%E5%8F%8A%E4%BF%83%E9%80%B2%E4%BA%8B%E6%A5%AD


ちょっと鋭いディベーターは、「けど、ビルトインスタビライザーとかいう考え方があったとしても900兆円もの借金をどうやって対処するんですか。火の車でやばくね?」とか思ったりするんじゃないでしょうか。

この指摘は全くもって一見、正しそうに見えます。しかし、経済学者ならこのようにかわします、「一般の家計のように借金を捉えることは政府レベルでは適切ではなく、またそのように捉えたとしても、政府には莫大な資産(土地や外貨など)があるので問題ないです。それよりも考えなければいけないのは政府における収入と支出のバランスであるプライマリーバランスです」例えば、税収が40兆円で、歳出が40兆円ならば、プライマリーバランスは取れていると言えます。結果的に、景気のサイクルである3から10年というスパンでみるならば、プライマリーバランスは取れていると言ったことがあります。小泉政権時に、イザナギ景気匹敵する連続的な好況でひさしぶりにプライマリーバランスがプラスになったということがありました。

プライマリーバランスが重視される理由には、財政破綻が起こる可能性を測る指標になるというものがありあます。例えば、プライマリーバランスが悪かったら、永久的に財政赤字が増え続け、それに応じて財政破綻する可能性も高くなり、国債のお金が返ってこなくなります。逆に、プライマリーバランスが良かったら、長期的ですが財政赤字は減り、それに応じて財政破綻する可能性は減り、国債のお金はちゃんと返ってきます。つまり、プライマリーバランスの良し悪しによって、国債を買うかどうかが決まり、ゆえにプライマリーバランスがよかったら財政破綻を防げるわけです(最悪の事態を免れる)

*政府の資産についての議論は、皆さんが思った通り、経済学者のいい訳っぽく聞こえるきらいがあります。実際、政府の資産なんていうのは計算しづらいですし、また売ることもできませんから、少し普通の資産とは違った性質を持っていて、資産としてカウントできるかも未知数です。けれども、プライマリーバランスの議論を丁寧に行えば、ある程度経済学の知的水準が高い海外ジャッジなんかは理解できるのではないかと思います。他にも、政府のカネの使い方を市民が決めるべきといった社会契約論っぽい議論などもできますし、オポ側のスタンスはいろいろあるので柔軟に考えて下さいね。

以上をあっさりとまとめてみると、長期的には財政赤字は許されなさそうですが、短期的には許されそうな感じがします。ガバとオポ双方に、一分の理があるということが分かってもらえたかなと思います。もちろん、海外大会ではこれぐらい議論は当たり前のようにされていたようなので(池原○明さんと高柳○太くんいわく)、双方ともが長期と短期の互いの弱い点をうまく補強する議論をだしたり、「~べき」議論をだしてみたりして、包括的な戦略が次には求められそうですね。

具体的には、、、、と思いましたが、これ以上皆さんが考える余地を奪ってしまってはいけないので、いったん止めるということにします(×石渡が寝たい)

皆さんにぜひ、考えてほしいテーマとして、列挙してみます。リサーチや思考実験などをして周りの人と話し合ってみてください。もちろん、次にお会いする機会があれば石渡に直接議論してもいいです。Welcome!!

1、    なぜIMFあるいは中央銀行が予算決定権を持つべきなの?
2、    そもそも財政破綻ってどれだけやばいの?
3、    財政破綻していない国もあるけど、それらの国はどうやって破綻を回避したの?
4、    (少し難しい議論として)二大政党制をもつ国で財政赤字が多いのはなぜ?

長文でしたが、どうでしたか。経済学が政治学や法学の議論よりもアレルギーが高い理由に、政治学や法学が平等や人権といったなじみやすい概念を扱うのに対して、経済学は今回の文章に出てきたような専門用語(ビルドインスタビライザー、プライマリーバランスなど)が多く、また前提とする論理(所得税は累進的、円高は輸出に不利とか)が多いからなのかなと思います。ということで今回の文章で、少しでも経済に対する理解が高まったのであれば、筆者としては幸いです。

このブログ執筆に関わったひとつの動機でもありますが、純ジャパでも確かなマターがあれば、微妙な英語をカバーして、十分に活躍できるのではないかと思っています。クリアなマターとクリアなマナーは裏返しの関係にあるとも思っています。だから、一つ一つの概念を大切にしたり、現実に対する意識を高めたりして、日々マターを磨いていけば、自ずと海外でも活躍する日が来ることを約束します、マジで。ガハク君よりは、TOEICの点数が高いですが(苦笑)、英語がダメダメな僕でもそれなりに活躍していますし。

最後に。質問や特にこういうネタを書いてほしい意見はお待ちしていますので、ぜひmarketplace.debate[@]gmail.com([]を外してください)にメールしてください。


石渡慧一 
国 際基督教大学卒業、東京大学公共政策大学院修士1年。2009年度ICUDS部長。Australs 2009 ESLブレイク、 All-Asian 2008 EFLブレイク(なお、この年の北東アジア参加者の中で1位)、NEAO 2009 EFL ブレイク、NEAO 2010 ジャッジブレイク、1年時ワールドでDCAと同じラウンドに突っ込まれたところイラジャ認定される。

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